認知症の家族への接し方|介護において大切な「3つの基本姿勢」
認知症の介護は家族だけで抱え込まず、適切な対処法を知り、行政や民間のサービスを上手に利用することが大切です。
認知症のご家族と接する際の基本姿勢や具体的な対応例、介護負担を軽減できるサービスなどを事前に知っておきましょう。
認知症のご本人にとって、これまで当たり前にできていたことが急にできなくなる不安や混乱は、想像以上に大きいものです。家族が基本的な接し方を把握していると、ご本人の不安を和らげ、家族のストレスも溜まりにくくなります1 。
介護の基本姿勢1|否定しない
認知症の方が事実と異なることを言ったとしても、間違いを正したり叱責したりすることは避けましょう 。否定されたことにより生じる悲しみや怒りの感情は、出来事の内容を忘れた後もご本人の記憶に残る傾向があり、ご家族と良好な関係を保つのが難しくなります。
認知症の方にとっては、今話している内容が「真実」です。まずはご本人に寄り添いながら、別のことに興味が向くよう誘導すると、うまく気持ちを切り替えられます。
介護の基本姿勢2|急かさない
認知症になると認知機能が低下するため、頭で考えて行動に移すのに時間がかかるようになります。この時、「早くしてよ!」「さっきも言ったでしょ」などと急かしてしまうと、ご本人はパニックに陥り、余計に物事が進まなくなることも少なくありません。
ご家族のもどかしい気持ちもよく理解できますが、焦る気持ちを抑えてご本人のペースを尊重し、落ち着いて見守ることが大切です。
介護の基本姿勢3|一人で抱え込まない
認知症の介護は長期間に及ぶケースが多く、介護者には心身ともに大きな負担がかかります。「家族だから、きちんと介護しないと」と頑張りすぎると、疲れからご本人にきつく接してしまい、お互いに辛い思いをすることもあります。
ご家族だけで完璧な介護を目指すのではなく、病院やケアマネジャーなどの専門家に相談しながら「一人で抱え込まない介護」を意識しましょう。
家族が対応に悩む言動をする理由
認知症の方が急に怒りっぽくなったり、不可解な行動を取ったりするのは、決してご家族を困らせようとしているからではありません2 。物事を覚えられなくなる、時間や場所の感覚がわからなくなるといった中核症状に、ご本人が苦しんでいるのが主な原因です。
例えば、1日のなかで同じことを繰り返し聞いてくるのは、ご本人の「忘れないように覚えないと」という気持ちが隠れている場合があります。
一見すると理解しがたいと思える言動も、その裏にある気持ちを理解することで、ご本人に寄り添った対応がしやすくなります。
【シーン別】家族が悩む行動への対応例
ご家族が認知症のご本人を介護するなかで、日常的に生じる対応に悩む場面に対して、ご本人を否定しない対応例をご紹介します。
何度も同じことを聞く・話す(記憶障害)
認知症の方は、新しい情報を記憶にとどめておくことが難しく、数分前の出来事であっても忘れてしまうことがあります。そのため、同じ質問や話題を何度も繰り返してしまうことは、決して珍しいことではありません。
否定せずに初めて聞いたように丁寧に答える
例えば、お昼ご飯を食べた直後に「今日のお昼ご飯、まだ?」と聞かれた時、「さっき食べたでしょ!」という言い方はご本人を傷つけてしまいます。「今準備しているから、少し待っててね」と、何度聞かれても初めて聞いたように答え、別の楽しい話題を振るなどして、自然に意識を別の方向へ向けるとよいでしょう。
メモやカレンダーを活用して視覚的に覚えやすくする
「今日何日?」「今日の予定は何だっけ?」などと繰り返し聞かれる際は、ご本人の居室やリビングにカレンダーやメモを貼るのも対策のひとつです。
ご本人に聞かれる度にカレンダーを見てもらうことで、視覚的に理解できて納得しやすくなります。
お財布や通帳を盗まれたと騒ぐ(物盗られ妄想)
大切なものをなくした不安や、自分の管理能力が落ちたことへの焦りが、身近な人への「疑い」として現れている状態です3 。
不安に共感し、一緒に探す
「私は盗んでない!」と正論で否定すると、ご本人の不安や疑いがかえって強まることがあります。「不安になるよね、私も一緒に探すよ」と声をかけ、気持ちに寄り添う姿勢を示すことで、安心感につながります。
否定や説得は逆効果になる
否定や説得をしても、被害感情が強まるだけです。財布が見つかった時、「だから私じゃなかったでしょ」「ここにお母さんが置いたから......」などと説明しても、ご本人の被害感情は収まりません。
一緒に探すなかで、ご本人が見つけやすい状況をつくり、「よかった、あったね!」と喜ぶと、気持ちよく終わらせることができます。
ひとり歩き・家に帰りたがる(見当識障害)
家族には不可解に見える行動も、ご本人には「仕事に行かなければ」「子どもが待っている」などの切実な理由がある場合がほとんどです。
無理に止めず、安全な範囲で一緒に歩く
力づくで外出を止めさせようとすると、ご本人が興奮して思わぬ怪我や事故につながることがあります。ご家族に余裕があれば、可能な範囲で一緒に歩き、落ち着いた所で「少し休みましょう」と声をかけながら自宅に戻るとよいでしょう。
GPSや見守りシールを活用する
ご家族が少し目を離した隙に、ご本人が外出してしまい、行方不明になるケースは少なくありません。ご本人の衣類にGPSを付けたり、自治体が配布している二次元バーコード付きの見守りシールを活用したりすると、万一の時の早期発見につながります。
入浴や着替えを拒否する(介護拒否)
認知症が進行すると、服の着替えや入浴の目的を理解できなくなり、家族が介護したくてもご本人が応じてくれないことがあります。
タイミングをずらしてみる
ご家族が無理強いすると、ご本人もますます頑なになりかねません。「今は嫌なんだな」と受け入れて、1時間後や食後などの気分が変わったタイミングで改めて声をかけて誘ってみると、スムーズに応じてくれる可能性があります。
声かけを工夫する
ご本人への声かけを、「足湯をしましょう」「温泉気分でさっぱりしませんか?」などに変えると、すんなり応じてくれることもあります。どんな声かけで前向きになるかは人それぞれなので、ご本人の趣味や好みに合わせて、色々なパターンを試してみましょう。
介護で「もう限界…」とならないように事前に知っておきたいこと
認知症介護では、ご本人だけでなく、ご家族自身のケアも大切です。ご家族が心身の健康を保つことが、ご本人の安定した生活を支えることにもつながります。
家族だけで抱え込まない
ご家族だけで介護するのは心身共に負担が重く、早々に限界を迎えてしまうことも少なくありません。介護保険サービスを取り入れたり、身近な人を頼ったりすることで、ご本人の在宅生活を無理なく維持しやすくなります。
介護者のストレスサインを見逃さない
一例として、以下の兆候が現れたら休息が必要です。
- ・ 夜、熟睡できない。または夜中に何度も目が覚める。
・以前好きだった趣味に、興味を持てなくなった。
・些細なことでイライラして、ご本人にきつくあたってしまう。
ご家族が心身共に余裕がなくなると、ご本人に適切な介護ができなくなり、ご本人との関係が悪化することもあります。疲れを感じたら、介護サービスを利用して休む時間を確保しましょう。
イライラした時の対処法(アンガーマネジメント)
認知症介護は思い通りに行かないことも多く、変わりゆくご本人の様子を目の当たりにするのは、ご家族にとってとても辛いものです。ご家族がご本人に怒りや苛立ちを覚えるのは、決して珍しいことではありません。
しかし、その苛立ちをそのままご本人にぶつけてしまうと、関係が崩れるだけでなく、ご家族自身も自己嫌悪に陥りやすくなります。そこで役立つのが、介護の現場でも取り入れられているアンガーマネジメントです4。
- 1. 深呼吸しながら6秒数えて気持ちを切り替える
2. 両手を数回グーパーさせて怒りを逸らす
3. 何に対して怒っているのかを紙に書いて気持ちを整理する。
4. ご本人から離れて怒りを落ち着ける
5. 好きなものを食べて気分転換する
上記はほんの一部ですが、ぜひできそうなものから試してみてください。
認知症介護で利用できるサービスと相談先
認知症介護で利用できるサービスや相談先を把握し、ご家族の負担軽減に努めましょう。
まずは「地域包括支援センター」へ相談を
地域包括支援センターは、高齢者の生活を支えるための総合窓口です。社会福祉士やケアマネジャーなどが在籍しており、介護保険の申請から具体的なサービスの紹介まで、無料で相談に乗ってくれます。
「まだ介護保険を使うほどではない」と思う段階でも、将来に備えた相談が可能です。
介護保険サービスを活用する
認知症のご本人が介護認定を受けると、以下のようなサービスを1〜3割の自己負担で利用できます。
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サービス名 |
内容 |
ご家族のメリット |
|---|---|---|
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デイサービス (通所介護) |
施設に日帰りで通い、食事の提供や入浴、機能訓練などを提供するサービス。 |
数時間、介護から解放されて家事や自分の休息に充てられる。 |
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ショートステイ (短期入所) |
数日間、施設に宿泊し、介護や生活支援を提供するサービス。 |
冠婚葬祭や、介護者のリフレッシュ(レスパイト)目的でも利用できる。 |
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訪問介護 (ホームヘルプ) |
ヘルパーが自宅を訪問し、入浴や排泄、家事支援を行うサービス。 |
身体的負担の大きいケアを介護職員に任せられる。 |
(参考文献5を参考に表を作成)
なお、上記のような介護保険サービスのほかにも、自治体独自のサービスや民間企業・NPO法人が提供する介護保険外サービスもあります。地域包括支援センターや自治体のWebサイトなどで情報を確認し、必要に応じて利用してみてください。
認知症カフェ(オレンジカフェ)を利用する
認知症カフェは、当事者とその家族、地域住民、専門家など誰でも参加できる交流の場です2。同じ悩みを持つ方々と話をすることで、「自分だけではない」という安心感を得られるほか、介護の工夫も共有できます。
認知症カフェの開催場所は、お住まいの市区町村のWebサイトを検索したり、地域包括支援センターに問い合わせたりすることで確認できます。
認知症の在宅介護が難しいと感じたら|施設入居検討のタイミング
ご家族だけで介護を続けることに限界を感じたら、施設入居も選択肢のひとつです。ここでは、施設入居を検討する際の心構えと、代表的な施設の種類をご紹介します。
施設入居はご本人と家族が笑顔でいるための選択
最後まで自宅で看られないご自身を責めてしまう方は少なくありません。
しかし、プロによる適切なケアを受けることで、ご本人の精神状態が安定すれば、かえって穏やかな時間を一緒に過ごせるようになるケースもあります。施設入居は、家族関係を良好に保つための前向きな決断と捉えましょう。
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
認知症の方の受け入れ先として代表的なのがグループホームです。5〜9人の少人数で、家庭的な共同生活を送る施設です。専門スタッフのサポートを受けながら、ご本人の能力に応じて家事を分担し、認知症の進行を緩やかにすることを目指します5。
【主な入居条件】
- ・ 原則65歳以上で、要支援2または要介護1以上の認定を受けた方(若年性認知症などにより、40〜64歳で要支援・要介護認定を受けている場合も対象)
- ・ 医師に認知症の診断を受けた方
- ・ 施設と同一の市区町村に住民票がある方
グループホームは介護保険の地域密着サービスに該当するため、住み慣れた地域での暮らしを継続したい方におすすめです。
特別養護老人ホーム(特養)と有料老人ホームの違い
「特養」と「有料老人ホーム」は混同されやすいですが、運営主体や費用、入居条件に大きな違いがあります5。
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特別養護老人ホーム(特養) |
有料老人ホーム(介護付き) |
|---|---|---|
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運営主体 |
社会福祉法人・地方自治体(公的) |
民間企業(営利) |
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入居条件 |
原則、要介護3以上 |
自立〜要介護5 |
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費用感 |
比較的安価 |
施設により幅がある(高額な場合も) |
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入居待ち |
数ヶ月〜数年単位になることも |
特養に比べると比較的スムーズ |
(参考文献5を参考に表を作成)
特養は公的な施設で費用を抑えられるのが魅力ですが、入居順位は「緊急性の高い順」となるため、待機期間が長くなる傾向にあります。 一方、有料老人ホームは、認知症専門フロアを持つ施設や、ホテルのようなサービスを提供する施設など、選択肢が豊富です。費用は高くなる傾向にありますが、すぐに入居したい場合や、設備・サービスにこだわりがある場合に適しています。
まとめ
認知症の介護は、先が見えない不安がつきまといますが、ご家族だけで抱え込む必要はありません。ご本人に寄り添い、適度な距離感を保ちながら、地域の介護サービスを積極的に活用しましょう。



