日々、アルコール依存症の診療を行っている日本精神神経学会専門医・指導医の石飛信先生(医療法人全人会 仁恵病院 副院長)に「アルコール依存症とは何か?」をわかりやすく解説いただきました。
たくさんの患者さまと向き合っている専門医の先生による解説ですので、ぜひご参考にしてください。
アルコール依存症とは
アルコール依存症は、長期にわたる飲酒により、自分の意思では飲酒量や飲むタイミングをコントロールできなくなる状態で、精神疾患の1つです1, 2。
はじめは、リラックスしたい、ストレスを紛らわせたいといった日常的な動機をきっかけにお酒を飲み始めるかもしれません。飲酒が習慣化すると耐性ができ、同じ量では物足りないと感じるようになります。その結果、より多くのアルコールを求めて、お酒の量が増加していくことがあります3。
アルコールは脳に作用し、快楽や安心感に関わるドーパミンの分泌を促します。心地よさを得る体験を何度も繰り返すと、脳はアルコールを強く求めるようになり、飲酒が習慣の範囲を超えて依存へと進行していくのです。アルコール依存症は、こうしたメカニズムから形成されていきます。本人の意思や性格の問題で起こるわけではありません4。
また、アルコール依存症の形成には以下のようなリスク因子が関わるといわれています5。
- ・遺伝的な体質
・育った環境
・強いストレス
・うつ病や不安障害などの精神疾患
ただし、これらに当てはまらない場合でも、飲酒の習慣がある方なら誰でもアルコール依存症を発症する可能性があるとされています6。アルコール依存症は特別な方がなるものではなく、お酒を飲むすべての人にとって身近なものです。
日々の飲酒が少しずつ積み重なるなかで進行していき、自分は大丈夫と思っていても、気づけばやめられなくなっていることもあります。アルコール依存症は否認の病気とも呼ばれ、自分が病気であることを認めにくいという心理的な特徴があります2。
日本では約10万人が病院でアルコール依存症の治療を受けているとされています1。
どこからが依存症なのか?と気になる方もいるかもしれませんが、実際には明確な線引きはありません。飲酒によって体調や人間関係、仕事に影響が出ているにもかかわらず、やめたいのにやめられないという状態であれば、アルコール依存症の可能性があると考えられます6。
アルコール依存症の進行|進行度別の症状
アルコール依存症は、ある日突然発症するものではなく徐々に進行していく病気です。
最初は気晴らしや付き合いのつもりだった飲酒が少しずつ習慣化し、いつの間にか自分の意思ではコントロールできなくなっていきます。
アルコール依存症の進行を4つの段階に分けて、それぞれの特徴や症状について解説します。早めの気づきや対処につなげていきましょう。
アルコール依存症の入り口
飲酒が緊張や不安を紛らわすための手段として習慣化してきた場合は、アルコール依存症が始まっている可能性があります7。
頻繁な飲酒を続けていると身体がアルコールに慣れ、酔いを感じるために必要な量が徐々に増えていきます。耐性や依存が形成されることで、二日酔いや泥酔、飲酒にまつわる失敗が起こりやすくなります8。
また、ブラックアウトが頻繁に起きるようであれば注意が必要です。
ブラックアウトとは飲酒中に意識があるにもかかわらず、その間の記憶が抜け落ちてしまう現象です9。
依存症でなくてもみられますが、急速かつ大量に飲酒したときにみられる現象であり、危険な飲み方であることに変わりはありません。実際に、ブラックアウトはアルコール依存症の始まりにみられることが多いとされています9。
アルコール依存症の初期
飲酒を続けていると、次第に精神依存や身体依存がみられるようになります8。
精神依存とは、飲まないと落ち着かず、飲酒への強い欲求やお酒を探す行動、お酒のことが常に頭から離れないといった特徴がみられる状態です8。
身体依存とは、長期的に大量の飲酒を続けることで身体がアルコールのある状態に適応し、アルコールが身体から抜けると離脱症状が出現する状態です10。
アルコールが身体に充分に存在しないと生体機能を正常に保てなくなり、不眠や手の震え(振戦)などの離脱症状がみられるようになります8, 10。
アルコール依存症の中期
飲酒の量やタイミングをコントロールできなくなっていき、家族や友人など周囲から飲酒を控えるよう注意されることが多くなります8。
不眠や手の震えに加えて、発汗、悪寒、不安感、焦燥感、脱力感といった離脱症状を避けるため、ますます飲酒がやめられなくなります8。
また、初期からみられるお酒の探索行動が深刻化し、仕事が終わると真っ先に自動販売機にお酒を買いに急ぐ、といったケースもみられます7。
アルコール依存症の後期
仕事や家族など飲酒以外の物事に興味を失い、社会的に孤立していくようになります8。
酔いつぶれるまで酒を飲み、眠ってはまた飲むという状態が1日中続き、これが数日から数週間にわたって繰り返されることもあります。最終的には身体が衰弱し、飲酒すらできなくなる状態に至る場合もあるのです7。
また、肝障害や膵炎などの健康被害があらわれたり、食事をせずに飲酒を続けることで栄養失調を併発し、死に至るケースもあります8。
アルコール依存症が生活に与える影響
多くの離脱症状は生活に影響を及ぼし、それを避けるために飲酒を繰り返すことでさらに身体依存が進行していきます1。
結果として、生活への影響がいっそう深刻になるおそれがあります。また、飲酒を最優先にするような精神依存も、仕事や生活にさまざまな支障をきたします。職場では、遅刻や欠勤が増える、仕事の効率が落ちる、朝に酒のにおいを指摘されるなどして、信用を失ってしまうことがあります6。
家庭では、配偶者や子供との信頼関係が崩れてさらにストレスを抱え、またお酒に逃げてしまうというケースも少なくありません6。やがて飲酒だけが生活の中心になっていき、ひどい場合には一日中飲み続ける生活となります7。
WHOの報告によると、アルコールは200種類以上の病気やけがの原因となるといわれています11。アルコールが、脳と身体それぞれに与える影響についてみていきましょう。
アルコールが脳に与える影響
アルコールが脳に与える影響として代表的な病気に、ウェルニッケ脳症やアルコール関連認知症が挙げられます。
ウェルニッケ脳症
ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の欠乏によって生じる脳の病気です3。発症の原因として、半数をアルコール依存症が占めているとされています12。頻繁な飲酒が続くと、栄養バランスの偏りや消化吸収機能の低下から、ビタミンB1が不足しやすくなります。ビタミンB1は脳のエネルギー代謝に欠かせない栄養素であり、不足すると神経細胞がダメージを受けてさまざまな症状が現れます。主な症状は、以下のとおりです13。
- ・眼球運動障害(眼の動きに制限が出る)
・意識障害
・失調性歩行(ふらつきがあり、まっすぐ歩けない)
これらの症状は、脳幹部(脳の深部)に起こる小さな出血が関与しているとされています。
ウェルニッケ脳症は、発症直後にビタミンB1を点滴で大量に投与すれば回復する場合もあります。しかし実際には、見逃されることが多く、死亡率は10~17%といわれています。また、約56~84%の方がアルコール関連認知症の一つであるコルサコフ症候群に移行します12。
アルコール関連認知症
アルコールは認知症の発症とも深い関わりがあります。
アルコール関連認知症は、大きくコルサコフ症候群と長期間にわたる大量飲酒によって、脳に慢性的なダメージが蓄積していくものに分類されます3。
コルサコフ症候群は、先述のとおり、ウェルニッケ脳症の後遺症です。主に、次のような症状がみられます13。
- ・近時記憶の障害(数分から数日前のことを覚えられない)
・前行性健忘(新しい出来事が覚えられない)
・作話(事実と違うことを話してしまう)
これらの症状は、脳の記憶に関わる領域がダメージを受けることにより生じます3。コルサコフ症候群は完全に回復することは難しいとされていますが、適切なケアとリハビリテーションが重要です12。
アルコール関連認知症のもう一つのタイプは、長期間にわたる大量飲酒によって、脳に慢性的なダメージが蓄積していくものです。飲酒の影響で、脳の萎縮が徐々に進行し、認知機能全体がゆっくりと低下していきます3。
また、高齢のアルコール依存症の方は、脳の血管にも障害が起こりやすく、脳梗塞の発症率が健常な高齢者の3〜4倍に高まるといわれています。そのため、血管性認知症のリスクも上昇します3。
アルコールが身体に与える影響
アルコールは身体にも大きな影響を与えます。その影響の受け方には、年齢や性別、体質などの個人差があり、人によって現れやすい症状や障害の進み方が異なります14。ここでは、アルコールが身体の各部分に、どのような影響を及ぼすのか解説します。
肝臓への影響
飲酒を続けると、まず肝臓に脂肪がたまり脂肪肝になります。さらに飲み続けると、アルコール性肝炎をおこし、重症化すると命に関わることもあります。特に日本では、明らかな肝炎の症状がなくても肝臓の線維化が進むことが多いようです15。
飲酒を続けることで、肝線維症から肝硬変へと進行します。肝硬変になると、肝性脳症や消化管出血など、重い合併症を引き起こす可能性があります。
膵臓への影響
アルコールは、膵臓の疾患を引き起こす原因にもなります。急性膵炎・慢性膵炎の主な原因は過度の飲酒で、特に男性では急性膵炎の約半数、慢性膵炎の8割近くがアルコールによるものです16。
急性膵炎を発症すると、みぞおち付近の強い痛みや吐き気、発熱を伴い、重症例ではショックや多臓器不全に進行して命に関わることもあります。また、急性膵炎は一度治癒しても、飲酒を再開すると再発するといわれています。
再発を繰り返した結果、膵臓が徐々に壊れて慢性膵炎へと移行します。慢性膵炎から糖尿病を引き起こすケースも少なくありません。
心血管系への影響
心臓や血管への影響も見逃せません。長い期間多量に飲酒すると高血圧や脳出血のリスクが高まります17。
また、アルコール摂取量は増えるほど心臓の収縮力に影響し、心不全や不整脈に関連するといわれています18。
さらに、WHOの統計では、2019年に約47万人が、アルコールに関連した心血管疾患で亡くなったと推計されました11。
がん
お酒を飲むと、身体のなかでアセトアルデヒドという物質が作られます。実はこのアセトアルデヒドには、元のアルコールと同様に発がん性があります19。これまでの研究で、飲酒が、乳がんや大腸がん、肝臓がんなど、さまざまながんの発症リスクを高めることがわかっています。特に、飲む量が多くなればなるほど、そのリスクはさらに高まります。
アルコール依存症に関するよくある質問
「もしかしてアルコール依存症?」「診断されたらもう一生お酒が飲めないの?」など、アルコール依存症について不安に思っている方も多いのではないでしょうか。
この章では、アルコール依存症に関してよくある疑問や誤解されがちな内容について、要点をまとめて解説していきます。
毎日お酒を飲む人はアルコール依存症の可能性が高いですか?
毎日お酒を飲むからといってアルコール依存症であるとは限りません。
しかし、休肝日にしようと決めても飲んでしまう、以前よりも飲む量が増えている、仕事中もお酒のことばかり考えている、趣味よりお酒を優先する、といった傾向があれば依存症の可能性は高いといえます20。
アルコール依存症と診断されたら一生お酒は飲めないのですか?
必ずしも一生飲めないわけではありません。以前は生涯にわたる完全な断酒が唯一の治療目標とされていましたが、近年では軽症~中等症の場合など、症状や本人の希望に応じて飲酒量をコントロールする減酒を目標とする治療法も取り入れられています。
ただし、重症の場合は引き続き断酒が必要となるため、医師と相談して適切な治療目標を決めることが大切です。
アルコール依存症を治療しないと生活にどのような影響が出ますか?
アルコール依存症は、大量かつ長期間の飲酒を続けることで、お酒がないといられなくなる状態です6。また、前述したアルコール離脱症状によって、仕事や家庭生活などの場面にさまざまな支障をきたす可能性があります。
代表的な飲酒の問題には、飲酒が原因となる遅刻や欠勤・仕事効率の低下・朝から酒のにおいを指摘されることなどが挙げられます6。これらは、家族や職場の方との信頼関係を損なう大きな要因となるでしょう。
また、飲酒による事故も身近で重要な問題です。酩酊状態では、交通事故・転倒・転落などさまざまな事故に巻き込まれるリスクが高まります。
背景にアルコール依存症がある場合、これらのリスクがさらに高まる可能性があります。こうした事態を防ぐためにも、飲酒の問題を放置せず、早めに対応することが大切です。
アルコール依存症は治りますか?
アルコール依存症は、完治するというより回復を目指す病気です。
病気自体は治りませんが、断酒や医師の指導のもとで減酒を続けることで心が安定し、生活を立て直せるようになります21。
まとめ|アルコール依存症は早めの対策が大切
ご自身やご家族がアルコール依存症かもしれないと感じたときは、セルフチェックをしたり、日々の飲酒量や頻度を振り返ったりして、今の飲酒習慣を見直してみましょう。
アルコール依存症は進行するほど、仕事や家庭、健康といった生活全体に深刻な影響を及ぼします。進行する前に気付いて、無理のない形での対処を続けることが欠かせません。
断酒や減酒をひとりで続けるのは簡単ではありません。困ったときは、専門の医療機関や相談窓口を活用し、抱え込まずに支援を受けましょう。
早めに行動し、これからの生活を守るための大切な一歩につなげていきましょう。


