認知症の症状の1つに、「ひとり歩き(徘徊)」があります。
ひとり歩きは、警察を巻き込んだ捜索につながったり、行方不明となり生命に関わる事態となったりすることもあります。
この記事では、日本認知症学会専門医・指導医の岩田淳先生に、なぜひとり歩きが起こるのか、その原因から家庭でできる具体的な予防・対策方法まで、お伺いしました。
今は症状がなくても、突然行方不明になる事態を防ぐため、できる対策について理解を深めていきましょう。
【「徘徊」という表現について】
近年、行政や医療機関では、ご本人の尊厳に配慮し「徘徊」という表現を「ひとり歩き」などへと改める動きが広がっています1。テヲトルでは、この新しい考え方を支持するとともに、「徘徊」という言葉で症状を認識し、情報を探しているご家族にも必要な情報が届くよう、一部で「ひとり歩き(徘徊)」などの表現を併記して解説しております。
認知症の「ひとり歩き」とは?当事者の目的を理解することから始めよう
認知症のひとり歩きは、認知症のBPSD(行動・心理症状、周辺症状)の1つです。
周囲の人からすると目的なく歩いているように見えますが、当事者には出かける目的があると考えられています1。
過度に行動を制限すると逆効果となるケースもあり、対策にはひとり歩きが起きる原因や当事者の気持ちの理解が大切です。
まずは認知症のひとり歩きについて理解を深めていきましょう。
ひとり歩きは徒歩に限らない!軽度の認知症でも起こりうる
「ひとり歩き」といっても、出かける手段は徒歩に限らず、自動車や自転車、公共交通機関(バス・電車)を使用して移動することもあり、遠方で発見されるケースもあります。
また、重度の認知症の当事者だけでなく、軽度の認知症でも行方不明につながることがあるため、認知症と診断されたら症状の度合いに関わらず備えが必要です2。
認知症による行方不明は年々増加。命に関わることもある
警察庁の発表によると、令和6年の認知症を理由とした行方不明者数は18,121人となりました。
平成24年の統計開始から最多となった令和5年の19,039人と比べ減少したものの、依然として高い水準で行方不明者が発生しています3。
行方不明者のうち16,942人は所在確認がされていますが、549人は警察により死亡が確認されており、行方不明は命に関わる事態であることがわかります。
認知症に係る行方不明者の所在確認数
|
区分 |
人数 |
|---|---|
|
所在確認 |
16,942人 |
|
死亡確認 |
549人 |
|
その他(届出取り下げなど) |
552 |
(文献3を参考に編集部作成)
また、東京都健康長寿医療センターの調査では、行方不明者の当日から翌日までは生存して発見されることが多い一方、3日目以降になると生存する可能性が急激に低下することがわかります2。独居の方ほど行方不明に気づくのが遅れやすいことも指摘されています。
(文献2を参考に編集部作成)
行方不明の結果、亡くなる原因は「溺死」と「低体温症」が多いとされました2。
- ・溺死:39.3%
・低体温症:34.4%
・事故:14.8%
・病気:8.2%
・その他:3.3%
認知症と診断されたら、突然のひとり歩きに備え事故対策や早期に発見するための工夫が必要です。
あてもなく歩き回る「徘徊」ではない。当事者には「外に出たい理由」や「目的地」があることも
ひとり歩きの症状は、第三者には目的なくさまよっているように見えることもあり、長らく「徘徊」と呼ばれていました。
しかし、現在では認知症の当事者が突然出かけたり歩き回ったりする症状の背景には、目的や動機があると考えられています。
尋ねたときには思い出せなくとも、歩き出した当初は「仕事に行かなきゃ」「買い物に行かなきゃ」など、当事者なりの外に出る理由や目的地があるのです1。
そのため、過度に行動を制限したり出かけたことをとがめたりすると、別の症状につながることもあるため、本人の意思を尊重した対応が求められます4。
こうしたひとり歩きの背景を理解することが、介護者の不安やイライラを抑え、適切にサポートする第一歩になります。

ひとり歩きが起こってしまう理由は様々だと思います。目的を持って外出したが、その目的を忘れてしまったり、道に迷ってしまったりなどが原因だと考えられます。
人によっては以前仕事をしていた時の気持ちがよみがえり、会社に行かなきゃという理由で外出してしまう、または今いる場所を自宅と認識できず、帰宅しないと、という思いで出かける方もおられるでしょう。
ひとり歩きは行方不明の大きな原因となりますし、そもそも交通事故に遭遇するリスクにもなります。なぜ出かけるのかという理由を考え、それに対して適切な対応をとることでご家族は心配を和らげることができるようになると思います。
ひとり歩き(徘徊)が起こる主な原因やきっかけ
認知症のひとり歩きには認知症を背景としたさまざまな原因があり、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症といった、原因疾患によってもひとり歩きの原因が異なります。
ここでは、ひとり歩きにつながると考えられている原因やきっかけについて詳しくご紹介します。
記憶障害・もの忘れによる道迷いやソワソワしたひとり歩き
記憶障害などにより、行動開始時にあった目的がわからなくなることでひとり歩きがおきることがあります。
また、健康な人であれば1回で覚えられる道順も記憶障害があると覚えられず、道に迷ってしまったり元の場所に戻ることもできなくなったりします。
これらは、アルツハイマー型認知症の方でよく認められます5。そのまま歩き続け、行方不明になった場所から遠い場所で保護されるようなことも起こります。
自宅では、何か探し物や用事を思い立ったものの、何をしようとしていたのかそもそもの目的を忘れてしまって、ソワソワ歩き続けることもあります。目的は忘れていますが、落ち着かない気分だけは残っていて、じっとしていられないということが起こります6。
視空間認知障害による道迷いの結果のひとり歩き
自宅の部屋や自分のいる場所の位置関係がわからなくなることでひとり歩きにつながることもあります。
私たちは目で見た情報を脳の中で分析して方向、距離、位置などを把握しますが、このようなことができなくなった状態を視空間認知障害と呼びます。
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症の方は、視空間認知障害が起こりやすく、このために道に迷います5,7。よく知った家の近所で迷う、昔から住んでいる家のなかで迷う、トイレの場所がわからないなどの場合は、視空間認知障害によるひとり歩きの可能性が高いです。
トイレに行くつもりがトイレの場所がわからず家を出てしまった、近くに買い物に出かけたら道に迷ってしまった、ということからひとり歩きにつながります。
常同的周遊(周徊)によるひとり歩き
前頭側頭型認知症の方は、同じ行動をし続けたいという強い衝動を持ちます(常同行動)。その1つの形として、ご本人が決めた特定のルートを毎日散歩するという行動がみられることがあります。
そのため、常同行動の特徴や外出を把握していない場合、「いなくなってしまった」と慌ててしまうことになります。
この行動を止めることはなかなか困難ですが、アルツハイマー型認知症の方のように道に迷うことは比較的少ないため、散歩コースに危険がない場合は同伴がなくとも問題ないこともあります8。
一方で、前頭側頭型認知症の場合、社会的なルールを破る行動(突然服を脱ぐ、支払い前にお店のものを持ち出してしまう、など)や、衝動的な行動(暴言・暴力、買い物など)によりトラブルが生じる可能性があります8。
見当識障害・判断力の低下から起こるひとり歩き
認知症の症状には、見当識障害や理解・判断力の低下があり、情報や状況を理解できなくなることから次のようなことが起こります9。
- ・今が何月何日か、自分が何歳かわからない(時間の見当識障害)
・いまどこにいるかがわからない(場所の見当識障害)
・いまの時間は電車が動いていない、ということがわからない
そのため、退職後や深夜にも関わらず「早く会社に行かなくては」と考えたり、「(自宅にいるにもかかわらず)知らない家なので帰らなければ」と出かけようとしたりするのです。
せん妄や夕暮れ症候群、心理的要因によるひとり歩き
脱水や薬の副作用によるせん妄により、幻覚を見たり強い不安に襲われたりして家を飛び出してしまうこともあります。また、夕方に不安や焦燥感、興奮・攻撃性が高まりやすい「夕暮れ症候群」もひとり歩きの一因とされています10。
どちらも夕方から夜間に症状が出たり悪化したりしやすく、家族や当事者は強く止めてしまいがちです。しかし、当事者本人は恐怖や不安感でいっぱいなので、制止しようとするとさらに興奮し、暴言や暴力に及ぶこともあります。
このほか、今いる場所に面白いことがなかったり、気まずかったり、心理的に落ち着かないことから外出してしまうこともあります11。

認知症の人は時に衝動的に何かをしないといけないと思ってしまうことがあります。今いる所は自宅ではないから帰らなければならない、買い物の時間になったから買い物に行かなければならない、ペットの犬が見当たらないので探しに行かないといけない、など様々な理由があるはずです。ただ、その理由は多くの場合勘違いだったり、記憶違い(ペットはもう亡くなって久しい、など)だったりします。
概して外出の行動に出る背景として「不安」、「焦燥感」があって、行動に移すことが多いように感じます。そのような行動をできるだけとらないように、どうしてそういう行動をとるのかを分析し、それに対処したいものです。
ただし、対処する場合、「あなたが考えていることは間違っているから外出する必要は無い」という言い方は決してしてはいけません。不安を取り除く言葉を優先しましょう。
ひとり歩き(徘徊)や行方不明の予防・対策方法
(文献4を参考に編集部作成)
認知症のひとり歩きは事故やトラブル、行方不明などにつながり、当事者の安全が脅かされます。
日頃の対策を心がけ、もしいなくなってしまったらすぐに捜索を開始しましょう2。
ひとり歩き・行方不明対策のポイント
- ・症状の度合いに関わらずいつでも起こりうる心づもりで備えておく
・家庭でできる備えに加え地域の協力が得られるように相談する
・行方がわからなくなったらすぐに捜索を開始し、考えられる全ての手段を講じる
以下では、今日から始められるひとり歩き対策・行方不明の予防策についてご紹介します。
センサーチャイムの設置や玄関の鍵の工夫
玄関などに開閉すると音の鳴る器具やセンサーをつけておくと、家族が外出に気づきやすくなります。
また、夜間や雨天のような外出時の危険が増すときは、厳重な施錠が必要なこともあるでしょう。鍵も開けやすいものではなく、二重ロックにしたり本人の目の届かない位置に鍵を取り付けたり工夫してください4。
GPSによる見守りサービスや住所・連絡先がわかるものを所持してもらう
万が一外に出てしまってもすぐに見つけられるよう、GPSを使った見守りサービスを活用するのも1つの手です。
ストラップやキーホルダーなどの小型のGPSを当事者がよく持ち歩くカバンや杖などに取り付けたり、普段履いている靴につけられるものもあります。GPSは市販のものもあれば、自治体によってはGPS機能をもつ携帯端末を貸し出してくれることもあります4。
また、当事者が外出先で迷ってしまっても助けを求められるように、服の裏や襟裏、靴の側面に連絡先を書いておいたり、財布、定期入れに連絡先を書いたカードを入れておくことも大切です4。
事故やケガ・トラブル防止のための持ち物の準備や工夫
夜間は日中よりも事故や転倒によるケガのリスクが高まります。
また、暑いときは熱中症や脱水、気温が下がる季節は低体温症のリスクも高まるため、事前に次のような準備をしておくとよいでしょう。
- ・車から発見しやすいように服装は明るい色のものを準備する
・目立つ場所に反射素材を取り付ける
・玄関の目立つ場所に熱中症予防の帽子や防寒対策のためのコートやジャケットをかけておく
・玄関にはサンダルなど転倒しやすいものは避け、履き慣れた靴を用意する
・出かけるときは水分補給ができるように飲み物を持ってもらう
日頃から本人の様子を確認し、身につけるものに工夫をしたり、忘れないように取りやすい場所に配置したりしてみましょう。
発見しやすいように事前に地域や警察の協力を依頼する
(文献12を参考に編集部作成)
「SOSネットワーク(※1)」など、ひとり歩きする方を発見するために行政や企業などが連携して、サポートする取り組みを行っている自治体もあります12。
地域包括支援センターに問い合わせ、実施していれば利用を申し込みましょう。発見時の連絡を円滑にするための「見守りシール」を配布していることもあります。
また、管轄の交番や警察署に顔写真と住所・氏名を届け出ておくと、保護された時に速やかに連絡がくる可能性が高まるでしょう。
ご近所の方やよく利用する店舗などに事情を話しておくと、見かけた時にご本人に声をかけてもらったり、ご家族に連絡してもらうこともできるかもしれませんね。
※1:「SOSネットワーク」は地域により取り組みの呼称やサポート内容が異なる場合があります
質の良い睡眠と規則正しい睡眠習慣で症状の悪化を防ぐ
物理的な備えだけでなく、生活習慣を整えることでできる対策もあります。
特に、睡眠障害は認知症の関連症状の悪化や、せん妄の要因となり、ひとり歩きにつながることもあります10,14。睡眠時間を確保し、睡眠・起床時間を整えることで症状が抑えられるかもしれません。
朝はカーテンを開け、日中は散歩や手を使う作業をして脳を刺激しましょう。日中に光を浴びてセロトニンの分泌を促すことで、睡眠に関わるメラトニンの分泌量が増え、夜間の睡眠の質向上につながります13。
また、日中に運動すると昼夜のメリハリがつき、体内時計を整える効果も期待できます13。デイサービスなどを利用しながら日中に活動することを心がけましょう。

ご自宅に一人でいる際が最も危険だと考えます。このため、ご家族が外出するのはデイサービスやショートステイに行ってもらっているときにすることが1つの工夫です。また、ご本人が外出したそうであれば、一緒に散歩に出かけるのも1つの案です。
ひとり歩き(徘徊)をする当事者に寄り添うためのポイント
ひとり歩きは無理に止めようとすると反発を招いたり、症状がかえって悪化することがあります。
過度に行動を制限し自宅に閉じ込めてしまうのではなく、ストレスを解消したり一緒に外出を楽しんだり、コミュニケーションを工夫してみましょう。
ここでは、ひとり歩きをする当事者に寄り添うポイントをご紹介します。
今いる場所が心地よく安心できる場所になるように
ひとり歩きを見つけたとき、「ダメ!」と叱責したり早口で注意したりしないように注意しましょう15。
子ども扱いしたり感情的に叱ったりすると、「馬鹿にされている」「ここには敵しかいない」と居心地の悪さを感じさせ、ひとり歩きを悪化させる可能性があります。当事者が安心でき、居心地のよい環境をつくるようにしてみましょう。
ひとり歩きを安全な散歩の時間に
外に出てしまったときは、すぐに連れ戻すのではなく、差し支えなければ一緒に近所を散歩してみましょう。当事者のストレス解消や適度な運動になるほか、家族も本人がよく歩くルートを把握できるでしょう。
外出する際には服装や安全に気を配り、一定の満足が得られたタイミングで「疲れたでしょうからお茶にしましょう」とか、「暗くなってきたので、食事にしましょう」のように、上手に帰宅を促してください4。
優しく声をかけ・切迫した気持ちに共感する
不安や焦燥感から外出したがる場合には、否定したり強く引き止めたりせず、落ち着いて声をかけましょう。
まずは耳を傾けて、当事者がどんな気持ちでいるのか、どこへ行こうとしているのかを確認し、「それは大変ですね」「心配ですね」と、まず切迫したご本人の気持ちに共感してあげることが大切です。
そのうえで、「その服では寒いので、上に着る物を探しましょう」とか、「会社には手ぶらではいけません。カバンを用意するのでもっていく物を一緒に探してください」というように声をかけ、他のことに関心を向けさせ、外出を思い止まらせてみましょう4。
また、自宅でソワソワしていたら、トイレに行きたかったり、探し物をしていたりすることもあります。優しく声をかけ、歩き回る理由を確認してみましょう。

まず、なぜその行動が生じているのかをよく分析することが重要です。認知症の人がとる行動には必ず理由があるという前提で考えましょう。ただし、その大前提として、認知症の人は事実を勘違いしていたり、記憶間違いをしていたり、理由を途中で忘れてしまっているという可能性も考えましょう。
介護サービスを利用して家族の休息(レスパイト)を確保する
ひとり歩きの対応では、介護する家族が心身ともに消耗することもあります。家族が介護疲れの状態になると、感情的に怒ってしまいがちです。
必要に応じて、介護サービスを活用して家族が休養できる環境を作ることも大切です。
家族が休める時間を確保することで、肉体的・精神的に余裕を持ちやすくなり、結果的に当事者に対して穏やかに対応することができるでしょう。
利用できる介護サービスには、デイサービスや施設のほか、ショートステイなどの宿泊サービスがあります16。また、介護者の休息のためのレスパイト入院を利用するのも1つの手です。
医療機関や公的機関などに相談しながら、家族の負担を軽減する手段を確保しましょう。
まとめ:ひとり歩きのきっかけや背景を理解して対処法を考えよう
ひとり歩きは当事者なりの目的がある行動であり、記憶障害・心理的要因・環境的要因・脳の機能低下など、さまざまな要因が重なって起こります。
日中の生活リズムを整えるとともに、不安や焦燥感を取り除くための環境づくりや声かけを心がけましょう。
また、家族だけで抱え込まず、周囲に認知症について共有し、助けを借りると当事者の安全を確保しやすくなります。家族の負担を軽減するためにも、専門家などの適切なサポートも受けながら対策しましょう。
認知症の方の外出には、必ずその人なりの「理由」があります。「徘徊」という言葉は、現在、本人の尊厳を守るために「ひとり歩き」などの表現に改められています。言葉に込められた配慮は、きっと相手にも伝わります。この機会に、当事者の方の気持ちに配慮した「ひとり歩き」という言葉を使ってみませんか。


