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スマホで認知症を予防できる? 認知症専門医・内田直樹先生が教える「認知予備能」の大切さ
更新日:2026-04-16

スマホで認知症を予防できる? 認知症専門医・内田直樹先生が教える「認知予備能」の大切さ

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「認知症になるのが怖いと考えている方はとても多い。しかし実際には認知症になってもできることはたくさんあり『認知予備能』を鍛えておくことが大切です」と語るのは、認知症専門医の内田直樹先生です。内田先生は、在宅医療を手がける精神科医として診療を行うほか、認知症に関する情報発信にも注力されています。

認知予備能とは

「認知予備能」とは、脳が萎縮しても認知機能の低下を抑える能力のことをいいます。一般的に、認知症は脳が萎縮することで進行していくと思われがちですが、実は、脳の萎縮の程度と認知症の症状は必ずしも一致しません。認知予備能を強化することにより、脳病態に抵抗しうる可能性があるとされています1

では、認知予備能を高めるためには何が必要なのでしょうか。

「高齢者において特に大切なのは、新しいことを学んで、社会と繋がることです。そして、これらを手軽に、かつ効果的に実践できるツールとしておすすめなのがスマートフォンの活用です」と内田先生は言います。

スマホを使えば、新しい操作や機能を学ぶ刺激を得られるだけでなく、地図アプリを活用して外出の不安を減らしたり、電話やゲームを通じて人とコミュニケーションを取ったりと、多角的なアプローチが可能になります。
何より、新しいことを始め、学ぶというプロセス自体が認知予備能を高めるため、スマホの活用は認知症予防において非常に有効な手段と言えるのです。

本記事では、内田先生が認知症の診療に携わるようになったきっかけや、現場で感じている認知症への誤解、スマホを使った認知症への備えについてお聞きしました。

内田直樹先生が認知症専門医になった経緯|認知症の早期介入のために認知症外来を開設

——内田先生は認知症専門医として活動されています。そもそも、先生が認知症領域に興味を持たれたのは、いつ頃のことだったのでしょうか?

内田先生:実を言うと、昔から認知症に強い関心を抱いていた訳ではありませんでした。振り返ってみると、医学部時代に精神科を選んだのも、在宅医療を始めたのも、「楽しそうだと感じたほう」を選択し続けてきた結果だったように感じています(笑)

認知症専門医の内田先生

精神科に進むことを決めた大きな理由は、見学に行った福岡大学病院の精神科が、とても楽しそうに見えたからでした。当時の医学部では、6年生になるまでに進路を決める必要があったのですが、私は部活動に打ち込んでいたこともあり、なかなか決断できずにいました。循環器内科と精神科の2つで、最後まで迷っていたんです。
そこで、6年生の夏休みを利用して、10ヶ所ほどの病院を見学することにしました。そのなかの一つが、私が最初に勤務することになった福岡大学病院です。見学に訪れた日は、ちょうど病院スタッフ同士でサッカーの試合が行われていて、見ず知らずの私を試合に誘ってくださいました。

そのとき、「この人たちとなら、楽しく働けそうだな」と素直に感じたことや、当時私が強く興味を持っていた、精神分析を専門とする教授が在籍されていたことも後押しとなり、同院の精神科に進むことを決めました。

——その後、認知症専門医を取得することになったきっかけを教えてください。

内田先生:認知症の専門医を取得したのは、大学院に在籍していた頃です。博士後期課程で薬学部との共同研究に携わり、認知症の周辺症状に対する漢方薬の効果を調べることになったんです。

この研究を進めるなかで、認知症や老年精神医学の専門医資格を取得しました。とはいえ、総合病院の外来を担当していた頃は、認知症の診療に携わる機会は今ほど多くありませんでしたね。

——現在は、在宅医療を中心に取り組まれていると伺っています。やはり、訪問診療を始めたことで、認知症の診療をする機会が増えたのでしょうか?

内田先生:そうですね。結果としてはそうなりました。ただ、在宅医療を始めた当初は、認知症や老年精神医学の専門医資格が役立つとは全く思っていなかったです。

総合病院に勤務していた頃は、外来に来られる方や入院患者さんの診療に日々あたっていました。もちろん、そうした仕事にはそれぞれのやりがいや楽しさがありましたが、次第に精神科医としてのセカンドキャリアを考えるようになっていきます。

そんな時に、福岡大学病院で指導医だった浦島 創 先生が、在宅医療を専門とするクリニックを開院されていることを知ったんです。そして、先生がとても楽しそうに診療されている姿を見て、「自分も在宅医療に携わってみたい」と強く感じました。

実際に在宅医療を始めてみると、対象となる患者さんは高齢の方が多く、結果として認知症の当事者と接する機会も増えていきました。それに伴って、専門医として関わることを求められる場面も、自然と多くなっていったように思います。 

在宅医療を提供するたろうクリニックの診察の様子

診療の様子(写真提供:たろうクリニック)

——そこから、認知症に関する情報発信も始められたのですね。

内田先生:重度の認知症当事者のなかには、症状がかなり進んだ段階で初めて医療につながるケースもあり、そのたびに「もっと早い段階から、できることはなかったのだろうか」と考えるようになりました。そうした問題意識から、自身のクリニックに認知症外来を立ち上げます。

ただ、実際に認知症外来を受診される方の多くは、認知症に対して強い不安を抱えている無症状の方や、ご家族に付き添われて来院された、ある程度症状が進行した方でした。認知症は早期段階から適切な支援につながることが大切ですが、不安や誤解から受診に踏み切れず、結果として医療につながるタイミングが遅れてしまうケースも少なくありません。

このような経験から、認知症の正しい情報が届いていない現状を強く意識するようになりました。そこで、クリニックのある福岡市を「認知症フレンドリーなまち」にする取り組みを始めたほか、認知症に関する書籍の執筆や地元紙でのコラム連載など、さまざまな形での情報発信にも力を入れています。

認知機能の低下を遅らせるために「認知予備能」を鍛える

——認知症の診療や情報発信を行うなかで、課題はどのようなところにあると感じていますか。

内田先生:一番大きな課題は、認知症のイメージが重度に偏りすぎていることだと感じています。認知症になりたくない、なるのが怖いと感じている方はとても多い印象です。

認知症の進行を遅らせるには、できる範囲で身体を動かしたり、人と話したりすることが重要です。しかし、認知症を発症して失敗が増えてくると、「失敗を気付かれたくない」と感じ、人との関わりを避けてしまう方もいらっしゃいます。こうして生活の幅が狭まることで、結果として進行が早まってしまうケースも多く見られます。

認知症はグラデーションのように段階的に進行していくもので、ある日突然、何もできなくなる訳ではありません。だからこそ、認知症に対する誤ったイメージを改め、早期から必要な支援につながりやすくする土台作りが重要だと考えています。

——たしかに、「認知症=何もできなくなってしまう」というイメージを持つ方もいらっしゃるように感じます。

内田先生:たとえ認知機能が低下して失敗が増えたとしても、適切な支援があれば、それまでの生活を続けられるケースも少なくありません。このような「認知症とともに、よりよく生きる」という考えは、「新しい認知症観」と呼ばれ、国も広まりを後押ししています2

認知症を発症した時に大切なのは、「何ができないのか」「どんな支援があれば生活を続けられるのか」を一つずつ整理していくことだと、私は考えています。

ただし、いくら適切な支援につながっても、本人ができるはずのことを、周囲の人が奪ってしまっては意味がありません。例えば、「高齢者は転ぶと危ないから」と、何でも周囲がやってしまうと、歩く機会が減り、結果として歩行能力や認知機能の低下につながることがあります。本人のためを思った行動が、かえって認知症の進行を早めてしまうこともあるんです。

——本人ができることを、なるべく減らさないことが重要なのですね。

内田先生:その通りだと思います。本人ができることを活かす環境が整えば、仕事や生活を続けることは十分に可能です。実際、当院の認知症外来に通われている50代の当事者で、先日、障害者雇用枠で常勤勤務が決まった方もいらっしゃいます。

福岡市には「オレンジ人材バンク」という、認知症の当事者が働ける仕組みがあり、それを活用して就職につながりました。この方のように、早期から適切な支援を受けることで、その人らしい生活をできるだけ長く続けて欲しいと考えています。

――適切な支援を受けること以外に、認知症の発症を防いだり、進行を遅らせたりする方法があれば教えてください。

内田先生:前提として、認知症は老化に伴って起こるもので、「これをすれば必ず防げる」という確実な方法はありません。そのため、「認知症予防」とは、発症や進行をできるだけ遅らせることを目指すものだと考えてください。

これを踏まえて、認知症予防についてお話すると、現在の研究で重要だと判明しているのが、「認知予備能3」と呼ばれる能力を高めることです。認知予備能とは、認知機能の低下に抗う能力のことです。認知症というと、「脳が縮むことで起こるもの」というイメージを持たれがちですが、脳の萎縮の程度と認知症の症状は必ずしも一致しません。脳に変化があっても、日常生活に大きな支障が出ない方もいて、その違いを生む要因の一つが認知予備能だと考えられています。

認知予備能を高めるには、新しいことを学んだり、社会とつながり続けたりすることが重要です。うれしいことに、この認知予備能は、本来の認知機能の発達やピークとは別に、中年以降でも鍛えられると考えられています。つまり、「年を重ねた後でも、認知予備能を鍛えれば、認知症の発症や進行を遅らせられるかもしれない」と言えますね。

認知予備能を高めるには「スマホ」を能動的に使うことがカギ

――では、認知予備能を高めるには、具体的にどのようなことをすればいいのでしょうか?

内田先生:私がおすすめしているのは、スマートフォンの活用です。スマホは新しいことを学べるうえに、人とつながる手段にもなり、脳のさまざまな部分を使うことができます。こうした学びや社会とのつながりは、認知予備能を高め、結果として認知症の発症や進行を遅らせることにもつながります。

国際的な医学誌『ランセット』が2024年に発表した報告4でも、社会的孤立や抑うつといった認知症の修正可能な14のリスク因子を対策することで、認知症の発症を45%減らせる可能性があると示されています。

スマホを使えば、新しい操作を覚えるという脳への刺激になるだけでなく、電話やゲームを通じて人と関わることで「社会的孤立」にアプローチできます。

また、スマホで新しい操作を覚えたり、今まで使っていなかったアプリに挑戦したりと「新しいことを始め、学ぶ」プロセスを続けることで、認知予備能を鍛えることにつながるのです。

さらにスマホは、認知機能が低下してきた時にも役立ちます。例えば、予定を忘れやすくなっても、スケジュールを登録して通知を設定しておけば、約束を守ることができます。道に迷ってしまった時も、地図アプリを使えば自宅に戻れるでしょう。いわば、「脳の杖」のような存在ですね。

このような、スマホの具体的な活用方法を多くの方に知っていただきたくて、2026年1月に『脳にいいスマホ 認知症をスマホで予防する』という書籍を出版しました。

脳にいいスマホ 認知症をスマホで予防するの表紙の画像

『脳にいいスマホ 認知症をスマホで予防する』

――「スマホは脳に悪い」という意見も耳にしたことがあるので、何だか意外です。

内田先生:「スマホ認知症」といった言葉を耳にして、スマホの使用に不安を感じている方もいるかもしれません。たしかに、スマホは使い方によっては、脳に悪影響を与えることがあります。

ただし、問題になっているのは、自分で考えて使うのではなく、次々と表示される動画や情報を受動的に見続ける時間が増え、結果として脳を疲れさせてしまう状態のことなんです。身近な例で言えば、テレビをつけっぱなしにして、ぼんやり眺めることと大きな違いはありません。

一方で、使う目的を決め、自分で考えながら能動的に使うのであれば、スマホが脳に悪い影響を与えるとは言えません。脳にとって良い使い方をすれば、学びや社会とのつながりを広げる道具として、スマホを活用するメリットは十分にあります。

――「スマホは難しそう」と感じている方もいらっしゃると思います。スマホをこれから活用したい人に、おすすめの使い方があれば教えてください。

内田先生:そうですね。「スマホを持ってはいるものの、電話やショートメッセージ、LINEだけを使っている」という方も多いかもしれません。そうした方にまずおすすめしたいのが、スマホの基本的な機能を使ってみることです。

代表的なものを3つ紹介すると、1つ目はメモ機能です。買い物リストや、やることを書き留めるだけなので、難しい操作は必要ありません。紙のメモと同じ感覚で使用できます。

次におすすめなのが、アラーム機能です。スマホのアラームは、ただ決まった時間に鳴らすだけではなく、タイトルをつけることもできるんです。そのため、あらかじめ設定しておけば、「8:00 朝の薬の時間」といった表示を出すこともできます。

さらに、音声入力機能も役立ちます。最近は精度が非常に高くなっており、小さな画面をタップして文字を入力するのが難しくても、スマホに話しかけるだけで文章を入力できます。どの機能も難しい操作はないため、スマホ活用の最初の一歩として、ぜひ気軽に試してみてほしいと思います。

認知症は特別な病気でなく、脳の老化の延長線上にあるもの


――最後に、テヲトルの読者にメッセージをお願いします。

内田先生:私は、認知症を老化の一部だと考えています。アルツハイマー病では、進行の段階がステージ1〜7まであり、ステージ6〜7になると、トイレでの排泄が難しくなったり、話す言葉が少なくなったりする傾向が見られます。
今まで当たり前にできていた日常の動作が少しずつ難しくなっていく。このような変化を踏まえると、認知症は特別なものではなく、老いの延長線上にあるものと言えるのではないでしょうか。
「老化」と聞くと、多くの方は「老化はしたくないな」と思う一方で、「歳を重ねると老化するのは仕方ない」と受け入れています。また、ただ受け入れるだけでは老化が進むばかりなので、身体を動かしたり、健康に気をつけたりして、できるだけ老化に抗おうとしますよね。私は、認知症にも、それと同じように向き合って欲しいと思っています。

「年を重ねれば、認知症になる可能性がある」という現実は、誰にとっても避けられません。ただ、だからといって何もしなければ、症状は進みやすくなってしまいます。人と話す、社会とつながる、趣味を楽しむといったことの積み重ねは、脳に前向きな影響を与えるだけでなく、認知症への備えにもなります。

その積み重ねを支え得る道具として、スマホはとても心強い存在です。学びや人とのつながりを助けてくれるパートナーとして、上手に活用してみてください。

――内田先生、ありがとうございました!

参考文献

1, 吉澤浩志:認知症と認知予備能. 神経心理学. 2018;34:142-154.
2, 厚生労働省:認知症施策推進基本計画. 2024. p5.
https://www.mhlw.go.jp/content/001344090.pdf](最終閲覧日:2026年1月29日)
3, 日本神経学会 residentホームページ:認知予備能を高めて、将来への備えを今から
https://resident.neurology-jp.org/commentary/future/future_28.html](最終閲覧日:2026年1月29日)
4, Livingston G, et al: Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet 2024;404:572-628.

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