認知症の診断では、画像検査による脳萎縮の有無も判断のひとつです。
「脳が萎縮している」と指摘されるとどんどん進行してしまうのではないか、もとに戻す方法はないのか、不安になってしまうものです。
本記事では、認知症における脳の萎縮のメカニズムについて正しく解説します。
認知症は生活習慣の見直しで進行を遅らせることが可能な場合もあります。今日からできる対策をお伝えするので、是非参考にしてください。
脳の萎縮がみられる認知症と進行の関係
認知症が原因の脳の萎縮は、全体が一律に縮むのではなく、疾患ごとに特定の部位から始まります。また、認知症の原因疾患ごとに、萎縮部位や萎縮のしかたに特徴があります。
認知症の診断では、MRI等の画像診断で各疾患に特有の萎縮パターンを確認することが、診断の重要な指標とされています。
画像上の萎縮は「現在の脳の状態」を示しており、これを正しく把握することが、将来の症状を予測し適切な対策を講じるための第一歩となります1。
ここでは認知症のタイプ別に、萎縮の特徴について解説します。
アルツハイマー型認知症
「アルツハイマー型認知症」は、側頭葉内側(海馬など)に顕著な萎縮が見られるのが特徴です。
初期症状として、最近の出来事を忘れる「出来事記憶障害(健忘)」が現れ、進行にともない道に迷う「視空間認知障害」や、物盗られ妄想などの心理症状も生じます1,2。
これは、新しい記憶の入口となる海馬が萎縮し、進行すると記憶を保管する側頭葉、空間や感覚を司る頭頂葉が萎縮することで起こります。
これらの症状には、抗認知症薬による薬物療法や、運動・社会交流等の非薬物療法を早期から適切に組み合わせることで、進行を遅らせ日常生活における動作や行動にも効果があることが分かっており、対策が推奨されています²。
前頭側頭型認知症
「前頭側頭型認知症」は、脳の前頭葉と側頭葉が萎縮する疾患です。
初期症状として、周囲の刺激に過敏に反応したり、自制心の制御が難しくなることから激しい言動が多くなる、社会的なルールが守れなくなるなどの行動が現われます。また、過食や偏食などの「食行動異常」や、同じ行動を繰り返す「常同行動」も特徴です。
進行に伴い側頭葉前方へ萎縮が広がると、言葉の意味が解らなくなる「言語障害」や、言葉が出てこない「失語障害」が生じます。
こうした行動異常は介護側の負担が重いため、本人の性格ではなく脳の病気による症状だと正しく知ることが不可欠です。
レビー小体型認知症
「レビー小体型認知症」は、初期には脳の萎縮が目立たないケースも多くあります。
記憶障害よりも先に注意力の低下や、物との距離感が掴めないという症状が現れるのが特徴です4。
進行に伴い海馬や大脳皮質の萎縮が生じますが、初期は画像に異常がなくても、幻視(実際にはないものが見える)などの症状が先行します。「萎縮がないから大丈夫」と画像だけで判断せず、症状の度合いや変化に注目する必要があるとされています4。
血管性認知症
「血管性認知症」は、脳卒中などの血管性疾患が直接の原因となりますが、背景には高血圧や糖尿病、喫煙などによる血管へのダメージ(動脈硬化)が影響しているとされています。
脳卒中などによる血管の詰まりや破裂により、脳細胞が酸素や栄養不足で死滅することで認知症の症状がでます5。
脳細胞がダメージを受けることで、遂行機能障害(段取りが組めない)や、歩行のふらつき、感情のコントロールが難しくなるなどの症状が現れます5。
血管性の認知症の場合、どの部分がダメージを受けたか、疾患の度合い、頻度により症状や進行のしかたが異なります。
血管性認知症は、再発がなければ進行を抑えられる場合もありますが、再発すると症状が階段状にガクンと悪化することもあるため、再発しないように血管性疾患の予防が重要となります5。
認知症でも脳の萎縮が見られないこともある?
認知症は必ずしも目に見える脳の萎縮を伴うわけではありません。
例えば「レビー小体型認知症」では、アルツハイマー型認知症と比較して、特定部位の脳の萎縮が目立ちにくいことが知られています。
画像で確認した時に脳の形に目立った変化が生じていないように見えることがある一方で、実際にはないものが見える「幻視」や、注意力・認知機能の低下といった症状が現れます4。
「画像に異常がないから大丈夫」と判断せず、生活の中での変化や症状を総合的に評価することが、適切なケアに繋がります。
一方で、脳の萎縮と認知機能の低下が必ずしも一致しないこともあります。萎縮が顕著でも、しっかりとした生活を送れるケースもあるため、自身にあった対策を行うことが大切です。
認知症で萎縮する脳の部位と症状の関係
脳のどの部位が萎縮するかによって、現れる症状は大きく異なります。
ここでは、脳の部位と役割をもとに、その部位が萎縮することにより生じる症状について見ていきましょう。
海馬
「海馬」は新しい記憶を作る入り口で、新しい記憶を一定期間保持します。長期的な記憶として保存される場合は、側頭葉へ送られるため、記憶の入口であり中継地点でもあります。
そのため、海馬が萎縮すると、数分前の会話や今日の出来事といった、直近の物事を覚えられなくなります。「さっき食事をしたばかりなのに、食べていないと言い張る」といった場面は、海馬が新しい記憶を脳に記録できなくなっているために起きます2。
一方、幼少期や若い頃の昔の記憶は、海馬ではない場所に保存されているため、海馬の萎縮に関わらず保たれることがあります。
そのため、「昔のことはよく覚えているのに、今日のことは忘れる」という状態が生じます1。
前頭葉
「前頭葉」は、計画性・社会性を担う部位です。
前頭葉が萎縮すると、料理や仕事など複数の手順が必要な作業を段取りよく進められなくなります。
また、もの忘れを自覚することへの不安や焦燥感から、些細なことで強く怒ったり、暴言につながることもあります1。
さらに、よく知っている場所で道に迷う「地誌的失見当識」や自宅を認識できなくなることを背景にひとり歩き(徘徊)が起きることもあります。
これらは全て性格の問題ではなく、脳の物理的な変化によるものです1。
側頭葉
「側頭葉」は言葉の意味を記憶し、経験を通じて蓄積された記憶(エピソード記憶)の保管を担う部位です。
側頭葉が萎縮すると、言葉の意味を記憶する機能が低下します。物の名前が出てこなくなり、やがて単語の意味そのものが理解できなくなります。たとえば「りんご」という言葉を聞いても何のことかわからなくなり、実物を見ても認識できなくなることもあります1,2。
また、言葉が出てこない「喚語困難」も側頭葉の機能低下で生じるほか、萎縮の初期には、「最近のことは忘れるのに昔のことは覚えている」状態ですが、萎縮が進行すると昔の記憶も徐々に失われていきます。
これらは、脳が言葉や情報を正しく処理できなくなるために起こる症状のため、ゆっくり短い言葉で話しかけたり、写真や実物をみせたり、コミュニケーションの工夫が大切です1。
頭頂葉
「頭頂葉」が萎縮すると、空間把握や視覚情報の処理が難しくなります。
よく知っている道で迷ったり、着替えの手順がわからなくなる、道具がうまく使えない、といった場面がその代表です2。
また時間・場所・人の認識が順に失われる「見当識障害」とも関連し、「今日が何日かわからない」「自分がどこにいるかわからない」「家族の顔が認識できなくなる」などの場面でつまずきが生じる可能性が高くなります2。
後頭葉
「後頭葉」は、視覚情報の処理を担う部位です。
ここが萎縮すると、目は見えているのに脳が情報を正しく処理できなくなります。
その結果、今まで使っていたハサミなどの用途がわからなくなる「失認」が生じたり、無意味な模様を人や虫に見間違える「錯視」や、実際にはいないものが見える「幻視」が生じることがあります1。
周りの人はおかしなことを言っていると思ってしまいますが、本人には本当に見えている感覚があります。これは脳が視覚情報を正しく認識できなくなっているためなので、否定せずに穏やかな対応をすることが望まれます1。
また、視覚と運動を統合する機能が低下することで「バック駐車が突然できなくなった」「地図を見ても道に迷う」といったことが起きます1。
認知症による脳の萎縮を予防することはできる?
一度失われた脳細胞を完全に戻すことは困難ですが、脳には「可塑性(かそせい)」という、残った神経同士がつながり合い補完する力が備わっています。
運動・食事・余暇活動といった生活習慣の改善は、脳のネットワークを再構築し、認知機能の低下を緩やかにすることは可能です。
また、血管性認知症のように、原因疾患の再発を防ぐことで進行を抑えることができる場合もあります。
生活習慣の改善は、脳の健康を守る有力な手段です。できることから始めることが、認知機能の維持や認知症と向き合う共生への第一歩となります。
認知症や脳の萎縮の進行を抑えるためにできること
脳の萎縮の進行を抑えるために、今日からできることがあります。
医学的に効果が示されているのは、食事・運動・睡眠・社会参加の4つです。野菜や魚を中心とした食事、週3回以上の有酸素運動、十分な睡眠、人との交流や余暇活動の継続などが推奨されています7。
ここでは認知機能を維持するために有効な対策についてみていきましょう。
生活習慣や食生活を改善する
青魚・緑黄色野菜・大豆・海藻・乳製品を中心とした「MIND食(マインド食)」は、脳の神経細胞を守り、認知症リスクを下げることが報告されています8。
反対に、白米などの炭水化物に偏った高カロリー・低タンパクな食事は血糖値を乱して脳の血管にダメージを与え、認知症リスクを高める傾向があります7。
また、アルコールには神経毒性があり、過度な飲酒は脳を直接萎縮させるため、十分な注意を払うことが必要です7。
完璧な食事を継続することは難しいですが、おかずを増やしてみる、食材を良いものに変えてみる、アルコールの摂取量を減らすなど、小さなことから始めてみましょう。
有酸素運動と質の良い睡眠を取り入れる
有酸素運動は認知症の予防に有効です。
1日15〜30分のウォーキングでBDNF(脳の神経細胞を育て守るタンパク質)が増え、認知機能を守ることが研究で確認されています9,10。
また、睡眠を整えるのも大切です。
睡眠中に脳内の老廃物を掃除するシステムが、アミロイドβ(認知症の原因物質)を排出していますが、睡眠不足はこの作業を妨げてしまいます。毎日決まった時間に寝起きして、7〜8時間の質の良い睡眠をとりましょう11。
孤独を避け社会的交流の機会を増やす
「社会的な孤立」は認知症のリスクを高めることがわかっています。
持続的な孤独感がある人は、そうでない人に比べ認知症の発症リスクが高いことが研究で示されています12。
人との会話や交流は、脳の神経ネットワークを刺激し続け脳のリハビリになります。
家族や友人との会話、地域活動やボランティアへの参加など、日常に人とのつながりを意識的に取り入れることが認知症予防につながります13。
まとめ:認知機能は維持したり進行を遅らせたりすることができる!小さなことから始めよう
認知症や脳の萎縮という診断は、不安がつきまといがちです。
しかし、認知症や脳の萎縮は、適切に治療し、生活を改善することで症状の悪化を抑えられる場合があります。
食事、運動、睡眠、社会とのつながりなど、今日からの生活習慣の積み重ねが、脳にポジティブな刺激を与え、脳の健康維持につながります。
まずはできることから始めてみましょう。症状の緩和だけでなく新しい楽しみや友人ができるなど、より豊かな人生につながるかもしれません。
もの忘れが気になったら専門家に相談してみよう
もの忘れが気になったら、専門の医療機関の受診も検討してみましょう。
病気が原因の場合は、適切な医療やサポートが必要になることもあります。
早めの対処が、症状の改善や、進行の抑制につながることもあるので、専門家に相談してみましょう。



