プロラクチンとは|役割や分泌メカニズム・数値が高い場合や男性への影響を解説【医師監修】

「最近、理由もなく生理が遅れている」「妊娠していないのに母乳が出る」
このような身体の異変があると「ホルモンバランスが乱れているのでは」と、不安になるのではないでしょうか。
月経や母乳の分泌などに関わるホルモンの一つが「プロラクチン(Prolactin)」です。
プロラクチンは脳の働きによって分泌が調整されており、女性だけではなく男性にも影響を及ぼします。
この記事では、プロラクチンの役割や分泌の異常による影響、改善方法について解説します。
プロラクチンとは
プロラクチンは、間脳にある下垂体の一部「下垂体前葉(かすいたいぜんよう)」から分泌されるホルモンです。

プロラクチンが分泌される間脳(※文献19を参考に編集部作成)
プロラクチンという名前は「pro(促進する)」と「lact(乳)」の組み合わせでできています。
その名の通り乳腺の発達や乳汁の分泌を促し、赤ちゃんのために母乳を作る準備を整えるホルモンです。
妊娠や出産、授乳といった女性のライフステージで重要な役割を担っています。
一方で、プロラクチンは女性に限定されたホルモンではなく、男性の身体でも分泌されています。
プロラクチンの分泌量に異常が起こると、男女共に性機能などに影響が出る場合があります。
プロラクチン分泌のメカニズム
プロラクチンは、主に脳の「視床下部(ししょうかぶ)」から分泌される「ドーパミン」によって調整されます。
ドーパミンは、プロラクチンの分泌を抑える働きを持つ物質です。
一方で、プロラクチンは睡眠や運動、食事、精神的ストレス、妊娠、授乳などの影響を受けて分泌量が増えます。
このような変化は身体の働きとして自然なものです。
しかし、下垂体やドーパミンの働きに問題があると、プロラクチンの分泌に過不足が生じ、身体にさまざまな影響が出る場合があります。
プロラクチンの主な役割
プロラクチンは、身体の中でさまざまな働きをするホルモンです。
ここでは、主な3つの役割について見てみましょう。
乳腺の発達・母乳の分泌を促進する
妊娠中はプロラクチンの分泌が増え、女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンとともに乳腺を発達させます。
授乳中には、母乳の分泌を促す働きを持ちます。
排卵を抑制する
プロラクチンには、排卵を起こすホルモンの分泌を抑える働きがあります。
妊娠中や授乳中に月経が止まるのは、プロラクチンの分泌が増えて排卵が抑えられるためです。
しかし、妊娠中や授乳中とは関係なくプロラクチンが過剰に分泌されると、排卵や月経の異常が起こる場合があります。
母性行動を誘発する
育児という本能的な部分にも、プロラクチンが関わっていると考えられています。
動物で行った研究では、プロラクチンの働きで子どもを守り育てる行動が強化されることがわかっています。
プロラクチンが不足・分泌量が減ったときの影響と原因
プロラクチンが基準値よりも低くなる状態を「プロラクチン分泌低下症」といいます。
主な原因は、下垂体腫瘍や炎症、外傷、手術などによる下垂体前葉へのダメージです。
プロラクチン分泌低下症は、男性には目立った症状はなく、主に女性が影響を受けます。
しかし、下垂体前葉機能の低下によってプロラクチン以外のホルモンも減少すると、身体に不調をきたす場合があります。
母乳が出ない・母乳の量が減る
プロラクチンの分泌量の低下で大きな影響を受けるのは、授乳期の母乳分泌です。
プロラクチンが十分に分泌されないと、母乳が出にくくなったり、全く出なかったりする原因となります。
出産時の大出血によって、脳下垂体がダメージを受ける「シーハン症候群」でも、母乳の分泌に影響が出ることがあります。
プロラクチンの過剰分泌・数値が高い場合のリスク・悪影響
プロラクチンが過剰に分泌される状態を「高プロラクチン血症」といいます。
主な原因として、次のようなものがあります。
- 下垂体の腫瘍(プロラクチン産生腫瘍など)
- 視床下部の異常(機能の異常、腫瘍、炎症、脳出血、脳梗塞、外傷など)
- ドーパミンの作用を抑える薬の服用(抗うつ薬や抗てんかん薬、胃薬、降圧薬、経口避妊薬など)
- 原発性甲状腺機能低下症(橋本病など)
高プロラクチン血症によって起こる、身体への影響を見てみましょう。
妊娠中や授乳中以外で乳汁が出る
プロラクチンの過剰分泌で乳腺の発達や乳汁の産生が促されると、妊娠中や授乳中ではないのに乳汁が分泌されます(乳汁漏出:にゅうじゅうろうしゅつ)。
乳汁漏出は、高プロラクチン血症患者の50~80%に見られます。
乳汁漏出の程度は、本人が自覚するほど漏れ出るものから、搾るとにじむ程度までさまざまです。
乳汁漏出で見られる乳汁の色は、透明や白色です。
分泌物が血性や薄い黄色の場合は、他の病気の可能性があります。
月経周期に異常が起こる
プロラクチンの分泌が増えすぎると、排卵が起こらなかったり(無排卵)、排卵しにくくなったりします。
そのため、月経周期の不順や、3か月以上月経が来ない「無月経」が起こる場合があります。
高プロラクチン血症による月経や排卵の異常が、不妊の原因になるケースもあります。
性欲低下や勃起不全が起こる
男性の性欲低下や勃起障害(ED)は、高プロラクチン血症が原因の一つです。
プロラクチンの値が高くなると、精巣の働きを助けるホルモンの分泌が抑えられ、男性不妊につながる場合があります。
頭痛や視野障害が起こる
高プロラクチン血症の原因として下垂体腫瘍があります。
この腫瘍が大きくなると、脳や目の神経を圧迫して、頭痛を引き起こしたり視野障害(見える範囲が狭くなったり欠けたりする状態)が起きたりします。
プロラクチンのホルモンバランスを整えるポイント
プロラクチンの値の変化には、何らかの身体の異常が関係している場合があります。まずは、気になる症状の原因を確認することが大切です。
そのうえで、ストレスや睡眠、運動など、プロラクチンの値に影響するといわれている生活習慣について見直してみましょう。
気になる症状について専門医への相談を検討する
月経の異常や乳汁分泌、頭痛、視野の異常など気になる症状がある場合は、医療機関への早めの受診を検討しましょう。
プロラクチン値の異常による主な症状と受診の目安となる診療科
対象 | 主な症状 | 受診の目安となる診療科 |
|---|---|---|
女性 | 月経不順・無月経 | 婦人科 |
排卵障害・不妊 | 婦人科 | |
妊娠・授乳以外での乳汁分泌 | 婦人科・乳腺外科・内分泌内科 | |
男性 | 勃起障害 | 泌尿器科 |
性欲低下 | 泌尿器科・内分泌内科 | |
男女共通 | 頭痛 | 脳神経内科・脳神経外科・内分泌内科 |
視野障害(見えにくい・欠ける) | 眼科・脳神経内科・脳神経外科 |
※編集部作成
プロラクチン値の異常は、血液検査によって確認できます。
原因に応じて、経過観察でよいケースもあれば、治療が必要になる場合もあります。
必要な検査を受け、医師の診察を受けることできっと安心につながるでしょう。
ストレスをため込まない
強いストレスが続くと、脳や自律神経の働きに影響を及ぼし、ホルモンバランスが乱れやすくなる場合があります。
プロラクチンも例外ではなく、精神的・身体的なストレスが分泌に影響します。
日常生活の中で完全にストレスをなくすのは難しいものです。そのような中でも休息をとる、趣味やリラックスできる時間を設けるなど、ストレスをため込まないようにしましょう。
十分な睡眠をとる
睡眠は、脳やホルモンの働きを整えるうえで欠かせない要素です。
睡眠不足が続くと、体内のホルモン分泌のリズムが乱れ、さまざまな不調につながる場合があります。
プロラクチンの分泌も、睡眠を含む生活リズムの影響を受けると考えられます。
そのため、規則正しい生活を心がけ、質のよい睡眠を確保することが重要です。寝る前のスマホを控え、部屋を暗くするなど身体を休ませる準備を整えましょう。
適正な睡眠時間には個人差がありますが、成人では6時間以上の睡眠時間確保が推奨されています。睡眠時間の確保だけでなく「身体が休まった感覚(睡眠休息感)」も大切です。
適度な運動習慣をつける
プロラクチンの分泌量は運動に影響を受けることがわかっています5。運動習慣はストレスの緩和にもつながります。
運動習慣としては、ウォーキングや筋力トレーニングなどがおすすめです。
なかなか運動する時間が取れない人も、軽いストレッチをする、短い距離なら歩くなどで、できることから始めてみましょう。
バランスのよい食生活を心がける
栄養バランスの取れた食生活は、身体の調子を整え、ホルモンが正常に働くための土台となります。
偏った食事を避け、たんぱく質・脂質・炭水化物の三大栄養素のバランスを意識した食事を心がけましょう。
バランスのよい食生活は生活習慣病など、健康な身体づくりのためにも大切です。
プロラクチンに関するよくある疑問
プロラクチンについて感じる疑問について見てみましょう。
プロラクチンの別名は?
プロラクチンは、母乳分泌を促す働きから「乳腺刺激ホルモン」「催乳ホルモン」などと呼ばれる場合があります。
また、プロラクチンの育児行動を促す作用から、俗に「愛情ホルモン」と紹介される場合があります。
ただし、これはプロラクチンの性質に由来する呼び名です。プロラクチンの分泌量によって、子どもへの愛情の度合いが変わるわけではありません。
プロラクチンの分泌を促す食べ物やサプリメントはある?
現時点では、プロラクチンの分泌量をコントロールする特定の食事やサプリメントはありません。
しかし、ホルモンバランスを整えるためには日々の栄養バランスが大切です。
サプリメントはあくまで栄養を補助するものです。不足しがちな栄養素を補う方法として活用しつつ、規則正しい食生活を習慣づけるとよいでしょう。
プロラクチンの分泌量が増えると男性の身体はどうなる?
プロラクチンの分泌量が増えると、まれなケースですが、男性も乳腺が発達して胸が膨らみ乳汁が出るケースがあります。
また、性欲の低下や勃起不全なども男性に起こる症状です。
加齢による性機能の低下ではなく、下垂体腫瘍などの病気が隠れている可能性もあります。
まとめ
プロラクチンは、下垂体前葉から分泌され、脳の視床下部によって分泌が調整されているホルモンです。
母乳分泌や月経・排卵などに重要な役割を果たしています。
プロラクチンの分泌量の異常は、月経異常や排卵障害、性機能の低下など、女性だけではなく男性の身体にも影響が出ます。
その原因は、脳や甲状腺の病気、薬の副作用などさまざまです。気になる症状が持続する場合は、医療機関での相談を検討してみましょう。
また、睡眠や運動など生活習慣を整えることが、プロラクチンを含めたホルモンバランスの維持につながります。できるところから改善してみましょう。
この記事の補足情報
参考文献
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難病情報センター:下垂体前葉機能低下症(指定難病78).概要・診断基準等(厚生労働省作成). [https://www.nanbyou.or.jp/entry/4018]. (最終閲覧日:2025年12月20日)
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黒木俊秀, 他:イラスト授業シリーズ ひと目でわかる 脳のしくみとはたらき図鑑.創元社. 2022;10-1,16-25.
著者情報
- PROFILE/ プロフィール

伊藤 たえ
赤坂パークビル脳神経外科 菅原クリニック 東京脳ドック 院長 ■Profile 2004年 浜松医科大学医学部 卒業 2004年 浜松医科大学付属病院 初期研修 2006年 浜松医科大学脳神経外科 2013年 河北総合病院脳神経外科 2016年 山田記念病院脳神経外科 2019年 菅原脳神経外科クリニック 2019年 現職 ■所属学会 日本脳神経外科学会専門医 日本脳卒中学会専門医 日本脳ドック学会認定医
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