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地域社会との交流で見つけたMCI(軽度認知障害)との向き合い方 - 前田恒夫さん
更新日:2025-01-24

地域社会との交流で見つけたMCI(軽度認知障害)との向き合い方 - 前田恒夫さん

地域社会との交流で見つけたMCI(軽度認知障害)との向き合い方 - 前田恒夫さん

2024年12月 取材

お話を伺った方

前田恒夫さん:MCI(軽度認知障害)当事者

1942年 長崎県佐世保市生まれ
大学卒業後、電子機器を扱うIT企業に入社し海外駐在を経ながら人材開発・育成に携わる。
他社の執行役員や起業を経験後、2000年より、夜間大学院の社会人向け人材開発プログラムとして、自ら課題を考え解決できる“自律型キャリア”開発や、COP(Community Of Practice:地域社会交流の実践論)を学び、慶応大学SFC 研究所キャリアリソースラボ認定キャリア・アドバイザーとしても活躍。

前田さんは、2021年にMCI(軽度認知障害)と診断されてから、地域社会との交流やたくさんの出会いの中で自分らしい向き合い方を見つけ、「早期発見、早期診断、早期対応」をテーマにMCIの啓発活動を精力的に行い、現在は主に「菊名みんなの広場」で認知症カフェの運営に携わっています。
前田さんが「早期発見、早期診断、早期対応」の重要性を発信していきたいという背景には、どのような思いがあるのでしょうか。

ご自身の変化に気づいたきっかけについて教えてください。

7、8年前に、女性活躍推進を進めるNPO団体に参加していたころのことです。女性の登用や女性が元気に働けるようなプログラム作りを手伝ってほしいと依頼を受け参加したのですが、ヒアリングやアンケートの分析など一人で抱え込んでしまうことも多く、夜も眠れない状態が続いて……それで、大切な資料を玄関に置き忘れたり、ミスをするようになったんです。
その時の同僚に「脳を休ませてください」と言われ、休むことにしました。声をかけてもらい、本当に助けられましたね。

ご家族も前田さんの変化に気づき始めていたんですか?

はい。仕事から離れてしばらくして、家族に指摘されることが増えました。
例えば、家族に冷凍パスタのペスカトーレの買い物を頼まれ、メモまでしているのにペペロンチーノを買ってきてしまって怒られたり、質問されたことに咄嗟に返事ができなくて「なぜ黙っているの?」と言われたり。そんなことが増えていました。
それで、娘が「お父さん、もの忘れ検診行ってみたら?」とすすめてくれました。

※もの忘れ検診:各自治体で実施している認知症の早期発見と早期対応を進めるための簡易検査。自治体によって対象年齢や実施内容が異なる。

 前田さんが認知症カフェでの発表用に作成した資料

検診に行ってみてどうでしたか?

まずは認知症の簡単なテストを行ってくれる病院へ行きました。本人と家族それぞれの話を聞いて、本人の話していることの確認をとりながら進めていました。
そうしたら、先生に“「単純なもの忘れと認知症のもの忘れとギリギリのところですが、大きな病院でもう少し詳しい検査をしますか?」と言われ、大事をとって紹介状を書いてもらうことにしました。
そこで、家族同伴の下、精密な検査を3日間に渡って受けて、診断されました。

MCIと診断を受けた時は、どのような気持ちだったのでしょうか?

最初は頭が真っ白になりました。でも、「放置するとアルツハイマーになる可能性がある」と言われて、どう対処するかを担当医に聞きました。
薬を使って進行を遅らせる手段と、薬を使わない場合の手段として「地域社会との交流」を勧められ、他のお薬との飲み合わせが気になったことと、副作用があったら嫌だなという思いもあり、「地域社会との交流」を選択することにしました。

ご家族の反応はいかがでしたか?

想像の中にある認知症とは違うから、認知症って言われてもショックじゃない、ピンときていないような感じでしたよ。

「地域社会との交流」はどのように取り組んでいったのでしょうか?

最初は、地域を知る勉強会や、ジャズやクラシックのLP鑑賞会に通い始め、その後は、地域ケアプラザで脳トレや運動と認知課題を組み合わせた運動する会に通ったり、家の近くにあるギャラリーのイベントに行ってみたりと、色々なところに足を運んでいました。

素晴らしい行動力ですね。現在は地域の集まりで認知症カフェを運営していますが、どのような経緯があったのでしょうか?

菊名みんなの広場 菊名みんなの広場

はい、「菊名みんなの広場」っていう地域の居場所があって、そこでは色々な団体が色々な会を開いています。最初は地域の子どもたちが集まる駄菓子屋さんみたいなところかなと思っていたんですが、「地域社会との交流」が大事と言われていたこともあり、ふらっと立ち寄ってみました。

本間さんと前田さん 本間さんと前田さん

そこで出会ったのが本間さんです。
とても気さくで優しい方で、少し話してみると、本間さんが「菊名みんなの広場」で月に1度、「えがおの日」という地域交流の場を運営していることを知りました。「えがおの日」では、地域食堂として薬膳カレーを作って提供したり、認知症カフェや「紙芝居」歌声サロンを行ったりと色々なプログラムが用意されていました。
しばらく通いながら、MCIや認知症について勉強を進めていたら、本間さんに「認知症カフェの進行をぜひお願いしたいです」と言われたんです。

前田さんの認知症カフェは、当事者としてのお話だけでなくワークショップを行うこともありますね

認知症カフェの様子 認知症カフェの様子

はい、認知症カフェを担当してしばらくは、あまりうまくいっていませんでした。周りの反応も良くないというか。そこで、認知症と介護の新聞記事を読んでもらってグループ毎の意見交換をしたり、認知症のイメージや家族の体験談を参加者から聞いたりしながら、認知症カフェの内容を変えていきました。 

日々工夫しながら、自分が感じている「早期発見・早期診断・早期対応」の大切さを伝える啓発活動が今では私の「生きがい」となっています。

交流が増えていったことがいい影響になっているのか、最近のもの忘れ検診では、結果も改善しているんです。

テヲトル編集部が前田さんと共に作成した数年間の心理曲線 テヲトル編集部が前田さんと共に作成した数年間の心理曲線

「地域社会との交流」を楽しむ一方、日々の生活で工夫されていることはありますか?

MCI当事者前田さんの工夫「付箋メモ」 MCI当事者前田さんの工夫「付箋メモ」

私はよくメモを取ります。
胸ポケットにいつもペンと付箋を入れていて、思いついたことや家族からの指摘を書き留めておいたり、後で家でまとめたりしています。

(写真の付箋を見ながら)
これは生活する中の留意点をメモしていますね。気を付けていますが、なかなか難しいです。 でもこういう工夫をし始めたら、ミスや家族からの指摘が減りました。

ノートも使っていて、学んだことを書くだけでなく、よく会う人の名前やその人の特徴、いつ会ったのかを記載して思い出せるようにしています。地域の多くの人たちの顔と名前を記憶するのに役立っています。

 
  

趣味の音楽鑑賞もとても重要です。

音楽セラピスト 中川ともゆきさん

中でも、地域で活躍されている音楽セラピスト中川ともゆきさんによる、「音楽回想療法のセッション」への参加を毎回楽しみにしています。
彼は、介護福祉士・認知症ケア専門士でもあります。
彼の昭和・大正時代の流行歌や童謡のギター演奏に沿って、当時の歌を想いだしながら、参加者の皆さんと一緒に楽しく歌います。

私は夕方になるとどんどん疲れがたまるタイプなのですが、そのセッションに参加した日は、昼寝がぐっすりできて、頭がスッキリします。 

これから取り組んでいきたいことについて教えてください

これからもMCIや認知症の「早期発見、早期診断、早期対応」の重要性を発信し続けたいですね。自分も感じたけれど、MCIになってもできることはたくさんあるから、なるべく早く発見して、「嫌なこと」や「つらいこと」より「楽しいこと」に焦点を当てて行動していったらまだまだ人生楽しいですよということを広めて行きたいです。

これは自分がMCIになるまでは全く知らなかった世界ですから、MCIになってから関わってくれた方々に感謝しています。

テヲトル
レター
テヲトルレターは感謝を伝えたい方へテヲトルを通して想いを届けるコーナーです。

※ご本人が執筆された内容を掲載しています

私に認知症カフェを任せてくれた本間さんへ

本間さんとの出会い(ご縁)は、3年前の7月頃、私がアロハシャツを着て「菊名みんなの広場」を初めて訪ねた時。

MCI当事者の私を「ハワイから見えた前田さんですね?」とえがおで温かく迎えてくれて以来、この3年間、一貫して、私を支えてくれている本間さんには、感謝の気持ちでいっぱいです!

特に、認知症サポーター養成講座の受講・えがお認知症カフェへの継続的参加後、えがお認知症カフェのオーナーを私に譲って以来、必要に応じ、アドバイスをする程度の黒子役に徹し続けていただいているお蔭で、私もえがお認知症カフェのファシリテーターとして、「早期発見、早期診断、早期対応」をテーマとする認知症啓発活動に専念することができています。また、チームオレンジやRUN伴への参加も勧めていただいています。

さらに、本間さんのお誘いで、神奈川オレンジネットワークに入会し、本間さんとご一緒に、ポスターセッションに参加した際、本間さんが「フリーペーパー”えがお”」について、私が「えがお認知症カフェ」について発表した結果、ポスターセッションの優秀賞(3組中)の1組に選ばれました。

これからもお互いの持ち味を生かした認知症啓発活動と、良きアドバイザー本間さんの良きパートナーとして活動を続けたく、引き続き、よろしくお願いいたします!

前田恒夫

 

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