糖尿病を患うと高血糖状態になりますが、正常な血糖値や診断基準をきちんと理解している人は少ないのではないでしょうか?
本記事では糖尿病と血糖値の基本や、糖尿病の診断基準値について解説します。
糖尿病と血糖値の基本知識
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)濃度が慢性的に高くなる代謝疾患です。2019年には世界で糖尿病の方が4億 6,300 万人と報告され1、多くの方が糖尿病を患っています。
膵臓からのインスリンの分泌低下や働きが悪くなることから血糖値が上昇します。
血糖値の高い状態が続くと、全身にさまざまな影響が出てしまいます2。
血糖値は糖尿病の診断において重要な指標となり、医療機関では複数の検査方法を組み合わせて総合的な判断によって診断を行います。
血糖値管理が重要な理由
高血糖状態が続くと、血管内皮細胞が傷害され、動脈硬化が進行しやすくなります。他にも、生体内の酸化反応により引き起こされる酸化ストレスの増加や慢性的な炎症状態を引き起こすため、さまざまな合併症のリスクを高めることが確認されています3。
これらにより、血糖値の管理が不十分な場合、網膜症や腎症、手足の末梢の神経障害といった細小血管合併症や、心筋梗塞や脳梗塞などの大血管合併症を引き起こすことがあります4。そのため、適切な血糖値管理が必要なのです。
なぜ血糖値が上がるのか
食事による血糖値の上昇は、健康な人でも自然に起こる現象です。膵臓から分泌されるインスリンの働きにより、血糖値は適切な範囲に維持されています。
しかしインスリンの分泌量が不足している場合やインスリンの働きが低下している場合は、血糖値の高い状態が続いてしまいます。
運動不足による筋肉でのブドウ糖利用の低下や、過度な糖質摂取も血糖値を上昇させる要因です。
高血糖状態が続くとどうなるのか
血糖値が著しく高い状態が続いても糖尿病の初期には自覚症状がありません。しかし、高血糖が続くと、口渇や頻尿などの代表的な症状があらわれ始めます5。
また細胞がブドウ糖を十分に利用できないため、脂肪や筋肉の分解が促進され、体重減少や強い疲労感を感じるようになります。
いずれも個人差が大きく、症状を自覚するタイミングは人それぞれです。
医療機関では血液検査や尿検査などの客観的な検査結果と合わせて総合的な評価を行います6, 7。
高血糖症状が続くと発症する可能性がある合併症
糖尿病は自覚症状がないまま進行し、さまざまな合併症を起こすことが大きな問題です。
細小血管症(神経障害、網膜症、腎症)
高血糖状態が続くと、細い血管が障害を受け、神経障害や網膜症、腎症などの合併症を引き起こす可能性があります8〜12。
合併症の種類 |
主な症状 |
検査・診断方法 |
管理のポイント |
神経障害 |
・手足のしびれや痛み |
・神経伝導検査 |
・血糖値の適切な管理 |
網膜症 |
|
・眼底検査 |
・定期的な眼科検査 |
腎症 |
・発症早期は無症状 |
・尿検査 |
・血圧管理 |
(文献8〜12を参考に表を作成)
大血管症(心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患、糖尿病足病変)
大血管の動脈硬化が進行すると、重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります8〜10、13〜15。
合併症の種類 |
主な症状 |
注意すべきポイント |
管理のポイント |
心筋梗塞 |
・強い胸の痛み |
|
・血糖・血圧・脂質の管理 |
脳梗塞 |
・突然の片麻痺 |
・麻痺など出現したら、早期受診と治療が大切 |
・血糖・血圧・脂質の管理 |
末梢動脈疾患 |
・間欠性跛行(下肢の痛みのためこまめに休憩しないと長距離歩行ができない) |
・感染を併発すると、足壊疽から切断に至る |
・禁煙 |
(文献8〜10、13〜15を参考に表を作成)
糖尿病を防ぐために血糖の診断数値を知っておこう
糖尿病の診断には、血糖値とHbA1cを測定し、高血糖状態が慢性的に続いているかどうかを確認します16〜18。
さらに症状や臨床所見、家族歴や体重歴などを参考に総合的に判断します。正常から糖尿病になるまでの段階は、正常型、境界型、糖尿病型と3段階に分類されます17, 18。
正常型
下記であれば糖尿病の可能性は低いと考えられます。
項目 |
数値 |
空腹時血糖値 |
110mg/dL未満 |
75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値 |
140mg/dL未満 |
(文献17、18を参考に表を作成)
境界型
境界型は糖尿病予備群と呼ばれる状態で、糖尿病の診断に至っていない状態のことをいいます。
糖尿病はいきなり血糖値が高くなり症状があらわれるのではなく、じわじわと進行する疾患(病気)であるため、境界型と診断された際には診断時から食事や運動習慣の改善を心がけることで糖尿病の発症予防につながります。
項目 |
数値 |
空腹時血糖値 |
110〜125mg/dL |
75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値 |
140〜199mg/dL |
(文献17、18を参考に表を作成)
糖尿病型
別日に行った検査で糖尿病型が2回以上認められれば、糖尿病と診断します。HbA1cのみの反復検査による診断は不可で、2回のうち1 回は血糖値のいずれかで糖尿病型を確認します。血糖値とHbA1cが同一採血でそれぞれ糖尿病型を示せば、1回の検査でも糖尿病と診断されます17。
糖尿病型 |
数値 |
|
血糖値 |
空腹時血糖値 |
126mg/dL以上 |
75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値または随時血糖 |
200mg/dL以上 |
|
HbA1c |
6.5%以上 |
(文献17、18を参考に表を作成)
まとめ
血糖値は糖尿病の診断基準のひとつであり、慢性的な高血糖状態は、重篤な合併症を引き起こすリスクが高まるため日頃の血糖コントロールが重要です。
糖尿病の診断基準を理解するためにも、血糖値の正しい基準値を知り、正常値を維持することを心がけましょう。