糖尿病で使用される薬にはさまざまな種類があります。本記事ではこれらの特徴や服用の注意点をご紹介します。
糖尿病治療における薬の役割
糖尿病における薬物療法は血糖値を正しい範囲に維持し、合併症の発症や進行を防ぐために重要な役割を果たしています。
糖尿病の治療では、まず食事療法と運動療法を行いますが、生活習慣の改善で血糖値をコントロールすることが難しい場合、医師の判断のもと薬による治療が開始されます1。
主な糖尿病治療薬の種類
糖尿病の治療薬には、飲み薬(経口血糖降下薬)と注射薬(インスリン製剤など)があり、状態や生活スタイルに合わせて選択します。それぞれの薬には特徴があり、作用の仕方や服用のタイミング、注意点が異なります。
医師は血糖値の状態や年齢、合併症の有無などを考慮して、最適な治療薬を選択します2〜4。
【糖尿病治療薬の種類と特徴一覧】
薬剤の分類 |
主な作用 |
特徴 |
服用
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主な注意点 |
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肝臓での糖新生を抑制し、筋肉での糖の取り込みを促進 |
・体重増加が少ない |
食事の直前または食後 |
・腎機能障害時は注意 |
DPP-4阻害薬 |
インクレチンの分解を抑制し、血糖値の上昇を緩和 |
・低血糖のリスクが低い |
1日1〜2回 |
・腎機能に応じて用量調整が必要な場合がある |
SGLT2阻害薬 |
腎臓での糖の再吸収を抑制し、尿中の糖を排出 |
・体重減少効果がある |
1日1回 |
・脱水に注意 |
GLP-1受容体作動薬 |
血糖値が高いときにインスリン分泌を促す |
・単独投与では低血糖を起こしにくい |
1日1回空腹時 |
・胃腸症状が起こることがある |
スルホニル尿素薬 |
膵臓からのインスリン分泌を促進 |
・血糖降下作用が強い |
1日1〜2回 |
・低血糖に注意 |
α-グルコシダーゼ阻害薬 |
糖質の吸収を遅らせる |
・食後の血糖上昇を抑制 |
毎食直前 |
・消化器症状に注意 |
グリニド系 |
素早くインスリンを分泌させる |
・血糖降下作用が即効性 |
毎食直前 |
・低血糖に注意 |
イメグリミン |
インスリンの分泌を促し、インスリン抵抗性も改善する |
・ミトコンドリアへの作用を介して血糖を下げる |
1日2回 |
・消化器症状に注意 |
(文献2〜4を参考に表を作成)
それぞれの特徴については以下の通りです。
ビグアナイド薬
ビグアナイド系薬剤は、肝臓での糖新生を抑制し、筋肉での糖の取り込みを促進してインスリンを効きやすくする作用があります。
体重増加が少なく、肥満を伴う2型糖尿病の方に使用されることが多く、単独使用時の低血糖リスクも比較的低いことが特徴です。
ビグアナイド系薬剤の特徴 |
ビグアナイド系薬剤の注意点 |
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(文献2〜5を参考に表を作成)
DPP-4阻害薬
DPP-4阻害薬はインクレチンというホルモンの分解を抑制することで、インスリンを出しやすくする薬です。
食後の血糖値上昇を抑制する作用があり、低血糖のリスクは比較的低くなります6。
DPP-4阻害薬には以下の特徴や注意点があります。
DPP-4阻害薬の特徴 |
DPP-4阻害薬の注意点 |
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・低血糖や便秘の副作用がある |
(文献2〜4、6を参考に表を作成)
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は、腎臓での糖の再吸収を阻害し、尿中に糖を排出することで血糖値を下げます5。インスリン分泌と直接関係せず、単独の使用では低血糖となる可能性が少ない薬です。SGLT2阻害薬には以下の特徴や注意点があります。
SGLT2阻害薬の特徴 |
SGLT2阻害薬の注意点 |
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・尿路感染症・性器感染症を起こす可能性あり |
(文献2〜5を参考に表を作成)
GLP-1受容体作動薬
GLP-1受容体作動薬は、体内で分泌される消化管ホルモンの一つであるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の働きを模倣する薬剤です。
膵臓に作用してインスリンの分泌を促進し、同時に血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制します。
また、脳の視床下部に働きかけることで食欲を抑制し、胃の動きを遅くすることで満腹感を持続させます。
GLP-1受容体作動薬には以下の特徴や注意点があります。
GLP-1受容体作動薬の特徴 |
GLP-1受容体作動薬の注意点 |
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・副作用に吐き気、嘔吐、下痢が現れやすい |
(文献2〜4を参考に表を作成)
スルホニル尿素薬(SU薬)
スルホニル尿素薬は、膵臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を促進する作用があります4。 血糖降下作用が強く、低血糖に注意が必要です。インスリンなど他の薬剤との併用も行われます。
スルホニル尿素薬には以下の特徴や注意点があります。
スルホニル尿素薬 |
特徴 |
第2世代(グリクラジド) |
・作用時間が比較的短い |
第3世代(グリメピリド) |
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(文献2〜4を参考に表を作成)
注意点としては、以下の通りです。
- ・激しい運動時やアルコール摂取時、他の糖尿病治療薬との併用時の低血糖に注意
・高齢者や腎機能・肝機能障害患者へは投与に注意が必要
α-グルコシダーゼ阻害薬
α-グルコシダーゼ阻害薬は食直前に服用する必要があり、小腸での糖質の吸収を遅らせることで、食後の高血糖を防ぎます2 。
単独では低血糖の可能性は低いですが、低血糖のときには必ず「ブドウ糖」を服用します。
α-グルコシダーゼ阻害薬は以下の特徴や注意点があります。
α-グルコシダーゼ阻害薬の特徴 |
α-グルコシダーゼ阻害薬の注意点 |
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(文献2〜4を参考に表を作成)
グリニド系
グリニド系薬剤は、速効型のインスリン分泌促進薬で、主に食後の高血糖を改善する目的で使用され、食直前に服用します。
膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を促進しますが、その作用は短時間で、血糖値が下がると作用も消失するという特徴があります2。
グリニド系薬剤の特徴 |
グリニド系薬剤の注意点 |
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(文献2〜4を参考に表を作成)
イメグリミン
イメグリミンは体内の細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアへの作用によりインスリン分泌を促したり、肝臓での糖新生を抑えることで血糖改善効果があらわれます2。
膵臓では血糖値の状態に応じて適切な量のインスリンを分泌するよう促します。
肝臓では余分な糖を作り出すのを抑え、骨格筋では糖を取り込む力を高めます。
イメグリミンの特徴 |
イメグリミンの注意点 |
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・まれに膀胱炎などの感染症があらわれる |
(文献2を参考に表を作成)
糖尿病の薬を服用する基準
血液検査の結果や生活習慣によって服用する薬が異なります。主に注目すべき項目は3つで、医師が服用する薬を選ぶ基準にもなります。
- ・HbA1c値
・血糖値
・食事療法や運動療法
HbA1c値
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、過去1〜2カ月間の血糖値の平均を示す指標で、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンに、ブドウ糖がくっついた状態を表す値です。
食事の影響を受けにくく、一時的な血糖値の変動に左右されない特徴があります。
HbA1cの目標値は、細小合併症予防の観点から7.0%未満を目標としますが、年齢や併存疾患などを考慮し管理目標を決定しますので、主治医に相談してみましょう6。
HbA1cの目標値 |
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6.0%未満 |
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8.0%未満 |
(文献6を参考に表を作成)
血糖値
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度を指します。
以下のいずれかの条件に該当する場合、薬物療法の開始が検討されます7。
- ・正常時の血糖値が126mg/dL以上
・75gOGTT 2時間の値が200mg/dL以上
・随時血糖値が200mg/dL以上
よくある質問
薬を自己判断で中止してもいいですか?
薬の自己判断による中止は推奨されません。医師の指示なく薬を中断してしまうと、糖尿病の悪化を招いてしまいます。
糖尿病の薬を飲み続けるとどうなりますか?
正しい薬物療法を継続することで、血糖を良好に保つことにつながり、合併症予防、健康寿命の延伸に寄与します。また、薬の種類によっては心臓、腎臓などの臓器保護作用を認める薬剤もありますので、合併症の発症、進展予防が期待できます。
まとめ
糖尿病の治療薬は、患者さんの病態や生活習慣に合わせて選択する必要があります。治療薬の特徴を理解し、薬の選択の際は医師と相談して決めると良いでしょう。