書店員がオススメする『認知症の本』は、書店チェーン・文教堂の太田鉄也さんがおすすめする認知症関連の書籍を紹介する書評コーナーです。
太田さんご自身も認知症の親を介護した経験を持ち、文教堂・溝ノ口本店では定期的に「認知症サポーター養成講座」を開催し、講師を勤めています。
認知症の啓蒙活動に尽力している太田さんの書評をきっかけに新しい認知症観を学んでみませんか?
『マンガで解決 親の認知症とお金が不安です』の概要
こんにちは。文教堂の太田です。
今回のご紹介するのは、『マンガで解決 親の認知症とお金が不安です』という認知症に関する書籍です。
著者の上大岡トメさんは、父親がアルツハイマー型認知症と診断され、元気だった母も急激に衰えていくという体験をもとに、戸惑いと不安の中でどう動けばよいかを理解できる本書を2024年に主婦の友社から出版されました。
父親がアルツハイマー型認知症と診断された体験を漫画化
コミックエッセイ形式の本書は、認知症の基礎知識から親への対応、介護にかかるお金、本人の気持ち、家族の生活、そして共に生きるための工夫まで、実体験と専門家の助言を交えて紹介しています。
認知症は、ある日突然、家族の生活に入り込んできます。知識も備えもないまま始まる介護の日々。そんな現実に直面した人に向けて、「いたずらに怖がらなくていい」と語りかけます。
泣きたくなるような場面にも、どこか可笑しみがあり、読者の心に寄り添う。著者のふんわりとした絵柄が、重いテーマを軽やかに包み込む。コミックエッセイという形式が、肩の力を抜いて読み進められる安心感を与えてくれます。
親の介護に関わるお金の問題。
認知症のご本人の行動に、家族は戸惑い、時に苛立ちを覚える。ですが、その背景には、本人の不安や混乱があります。著者は、認知症のご本人の世界に寄り添うことで、介護が少し楽になることを伝えています。
現実を否定せず「まあしょうがないか」と肩の力を抜くことが、家族の心を軽くします。本人の世界に合わせて「演技を楽しむ」という提案も印象的です。
正しさにこだわらず、安心を届けるための工夫としての演技。それができれば、家族の心にも余裕が生まれます。また、介護にかかるお金の問題。「親の介護は、親自身の年金や預貯金の範囲で行うことが大原則です」という言葉が覚悟を促します。
家計財産の把握、資産棚卸しや金融機関との交渉など、現実的な備えの必要性を説く内容は実用的です。
親の判断力が残っているうちに手続きを進めることの重要性も強調されており、時間との勝負であることがよくわかります。かつて『キッパリ!たった5分間で自分を変える本』(幻冬社文庫)で働く女性の心をつかんだ著者が、今や認知症介護世代となりつつあるかつての読者へ送るエールでもあるでしょう。
予習として、ぜひ多くの人に手に取ってほしいと思います。
認知症は今や特別なことではなく、誰にでも起こりうる「普通のこと」なので。
この本をおすすめしたい方
・認知症と向き合う家族・支援者
・認知症のご本人の思いや困りごとを理解したい方
・介護をする上での考え方や工夫を知りたい方
書籍の詳細は出版社のホームページまで。
https://books.shufunotomo.co.jp/book/b10045836.html
太田鉄也さん・プロフィール
文教堂本部教室事業部所属。教室事業部シニアインストラクター。
「脳げんきサロン」「認知症サポーター養成講座」講師担当。認知症サポーターキャラバン・メイト。



