糖尿病の95%以上を占めるのが2型糖尿病です。
このタイプの糖尿病は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが十分に発揮されなくなることで発症します。
「インスリンの分泌が滞る」あるいは「インスリンが効きにくくなる」という体質的な要因に、不適切な食生活や運動不足といった生活習慣が重なることで発症すると考えられています。
糖尿病の治療では、インスリンの分泌を促すことと同時にインスリンが効果を発揮しやすい状態、つまり血糖値が上がりにくい状態へ導くことが重要となるため、食事療法は薬物療法と同じく糖尿病治療で重要となります。
この記事では食事療法について、詳しく解説していきます。
糖尿病の方におすすめの食事
糖尿病における食事療法の目的は、血糖値の急激な上昇を防ぎながら、必要な栄養素をバランスよく摂取することです1。主食や主菜、副菜を組み合わせたバランスのとれた食事を検討しましょう。
2型糖尿病の食事療法では、炭水化物は総エネルギーの50〜60%、たんぱく質は20%以下、残りを脂質(摂取比率は25%が上限)とすることが推奨されます。なお、1型糖尿病の場合は、病態に応じた個別の対応が必要となります2。
主食は玄米や雑穀米などの血糖値が緩やかに上昇する食品を選び、主菜はたんぱく質を含む肉や魚、卵、大豆製品を選びましょう。
副菜は食物繊維が豊富な野菜やキノコ類をたっぷり取り入れることが推奨されています3。
なぜ食事療法が必要なのか
食事療法を適切に実施することで、インスリンの分泌や働きを改善し、血糖値の急激な上昇を防ぎ、肥満の改善や予防にもつながります。
また、血糖値を適切にコントロールできていない状態が続くと、網膜症や腎症、神経障害などの合併症を引き起こす可能性が高まります4。
血糖値の管理だけでなく、高血圧や脂質異常症などの他の生活習慣病の予防や改善にも有効です5。
妊娠糖尿病でも食事療法は必要なのか
妊娠糖尿病においても、母体と胎児の健康を守るために食事療法が重要です。食事療法を行うことで必要な栄養を摂り、胎児の健全な発育と母体の血糖コントロール、適正な体重増加を目指します。
適切な血糖値の管理ができない場合、母児合併症につながり、早産や妊娠高血圧症候群、帝王切開のリスクが高まると報告されています6。
また、胎児への影響としては、羊水過多症や巨大児(4,000g以上)になるリスクが増加し、出産後も新生児の低血糖や呼吸障害などの合併症が起こりやすくなります7。
妊娠糖尿病の食事療法では、妊娠前のBMIや妊娠週数に応じて総エネルギー摂取量を個別に設定します。
基本的には1日3回の規則正しい食事が推奨されますが、それでも血糖値が高い場合は1日の食事を6回に分ける「分割食」を行うことがあります。主に1食あたりの炭水化物摂取量を減らすことで、食後の血糖値の上昇を抑えることが可能となります8,9。
糖尿病の方が取り入れるべき食品
食品選びが血糖値に影響するため、血糖値が上がりにくい食品、上がりやすい食品について理解しておきましょう10。
血糖値が上がりにくい食品 |
食物繊維が豊富な野菜類 |
・ブロッコリー・ほうれん草・きのこ類 |
良質なたんぱく質 |
・魚・鶏肉・豆腐 |
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食物繊維が豊富な穀物 |
・玄米・雑穀 |
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低GI果物 |
・りんご・みかん |
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血糖値が上がりやすい食品 |
精製された炭水化物 |
・白米・食パン |
甘い飲料 |
・ジュース・スポーツドリンク |
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糖分の多い果物 |
・バナナ・ぶどう |
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お菓子類 |
・ケーキ・アイスクリーム |
血糖値が上がりにくい食品を必ず食べるべき、というわけではありませんが、食事のメニューに迷った際は、積極的に血糖値を上げにくい食品を選択しましょう。
糖尿病の方における食べ方の工夫や注意点
普段からできる食べ方の工夫や注意点として、以下のことを心がけてみましょう。
・よく噛んで食べる
・食べる順番を意識する
・1日3回、規則正しく食事をとる
・栄養素が偏らないようにする
食事制限が厳しいと栄養バランスが崩れ、かえって健康状態を悪化させる可能性があります。極端な制限ではなく、食べ過ぎに注意してバランスのとれた食生活を心がけましょう11。
食べ過ぎなければ基本的に食べてはいけないものはありません。管理栄養士による栄養指導を定期的に受けることで、個々の生活スタイルに合わせた実践的な食事プランを立てることができます。
食事療法に迷う場合は、管理栄養士による栄養指導を受けてみましょう。
よく噛んで食べる
よく噛むことで唾液(だえき)の分泌が促進され、消化酵素の働きが活発になると同時に、食後の血糖値の急激な上昇を抑えられることがわかっています12。
一方、早食いは大食いにもつながることや血糖値の急激な上昇を引き起こす要因となるため注意が必要です。
食べる順番を意識する
推奨される食事の順序は以下の通りです13。
1. 野菜から始める(食物繊維)
2. たんぱく質(魚、肉、卵、大豆製品)
3. 最後に炭水化物(ご飯、パン)
順序通りに食べることにより、食物繊維が胃内容物の移動を遅らせ、糖質の吸収を緩やかにします。
また、炭水化物よりたんぱく質を先に摂取することで、インスリンの分泌が促進され、血糖値の急激な上昇を抑制する効果が期待できます14。
規則正しい食事をとる
1日3回規則正しく食事をとることで、体内の血糖リズムが整い、インスリンの働きも効率的になります。
特に朝食は重要で、朝食を抜くと昼食時の血糖値が急激に上昇しやすくなります。
また、食事の間隔が空きすぎると空腹時の過食につながる可能性があるため、適切な間隔での食事摂取を心がけましょう15。
栄養素が偏らないようにする
単に炭水化物16を制限するのではなく、4つの必要な栄養素をバランスよく摂取することが重要です。
栄養素 |
身体への役割 |
たんぱく質 |
筋肉の維持と修復に必要 |
食物繊維 |
血糖値の上昇を緩やかにする |
ビタミン・ミネラル |
代謝や免疫機能の維持に重要 |
適度な脂質 |
必須脂肪酸(リノール酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、DHA、EPA)の供給源17 |
どの栄養素も身体の健康を維持するために必要なものであるため、食べるものが偏りすぎてはいけません。
おやつについて
お菓子は体重増加や血糖値の上昇につながるため、適量を守ることが大切です17。
・栄養成分表示を確認し、糖分と炭水化物が少ないものを選ぶ
・だらだら食べず、80kcal程度を目安に量を決める
・個包装のミニサイズを活用する
・ゆっくり味わって食べる
・夕食後を避け、日中に摂取する
・お菓子を目につかない場所に置く
・間食後に運動を取り入れる
糖尿病は食事だけじゃなく運動も意識しよう
食事療法と運動療法を組み合わせることで、より効果的な血糖値のコントロールが可能となり、以下のような効果が期待できます18。
・血糖値が改善する
・インスリンの感受性が改善する
・体重の管理
・心肺機能が向上する
まずはウォーキングなど、無理のない運動から始めることをお勧めします。
また、合併症の状態によっては、激しい運動などが禁止される場合がありますので、運動を始める前に適切な運動量、運動強度などを主治医に相談しましょう19。
まとめ|糖尿病の方におすすめの食事とは?血糖値を上げない食べ方と注意点を解説します
糖尿病の食事療法では、以下のポイントを意識することで血糖値のコントロールが可能です。
・バランスのよい食事を心がけ、極端な制限は避ける
・食べる順番を意識し、ゆっくりよく噛んで食べる
・規則正しい食事時間を守る
・適切なおやつ選びと運動を取り入れる
・定期的に医療機関を受診し、必要に応じて栄養指導を受ける
食事療法は無理のない範囲で実践し、必要に応じて医療専門家に相談しながら、長期的な健康管理を目指しましょう。