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認知症で転倒リスクは8倍に?予防策を解説【理学療法士監修】
更新日:2025-03-07

認知症で転倒リスクは8倍に?予防策を解説【理学療法士監修】

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認知症で転倒リスクは8倍に?予防策を解説【理学療法士が解説】

親に認知症の症状が現れはじめ、ふらつきもみられるようになり、転倒を心配する家族も多いのではないでしょうか。認知症の方が転倒すると骨折や入院につながりやすいと言われているため、予防策を取り入れることが重要です。

この記事では、認知症の方が転倒しやすい理由や、転倒を防ぐポイントをご紹介します。どのような点に注意すべきか把握することで、転倒リスクの軽減が期待できるでしょう。

認知症の方が転倒しやすい4つの理由

認知症の高齢者は、認知症でない方と比べると転倒リスクが8倍も高いという報告があります1。認知症の方が転倒しやすい理由として、主に以下の4点があげられます。

1. 理解力・判断力の低下
2. 焦りや妄想などの症状
3. バランス能力の低下
4. 薬の服用による副作用

ここでは、それぞれの理由について詳しく解説します。

1. 理解力・判断力の低下

転倒しやすい理由の1つ目が、理解力・判断力の低下です。認知機能が低下すると、周囲の状況を正確に把握することが難しくなるとされています2 。このような症状は、認知症の中核症状(基本的な症状)に分類されます。

理解力や判断力が低下すると、小さな段差や障害物に気づかなかったり、距離感がつかめなくなったりすることもあるのです2。注意力も低下しやすいので、段差のつまずきや物への接触が起こりやすくなり、転倒のリスクが高まります。

2. 焦りや妄想などの症状

2つ目の理由が、焦りや妄想などの症状です。このような症状は、認知症の行動・心理症状(以下:BPSD)に分類されます。BPSDとは認知症の中核症状をもとに、以下のような要因が影響して出現する症状のことです3

    身体的要因
    環境的要因
    心理的要因

認知症の方は、もの忘れなどを自覚し漠然とした不安や焦燥感を覚えやすい傾向にあり、周囲への注意が疎かになって転倒しやすくなります。

BPSDには焦りや妄想だけでなく、さまざまな症状があります。詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてみてください。

 3. バランス能力の低下

3つ目の理由が、バランス能力の低下です。認知症の進行に伴って、バランス能力が低下するとされています1。バランス能力が低下すると、動作を行う際に不安定となり、ふらつきが生じやすくなるのです。

具体的には、イスから立ち上がるときにぐらついたり、歩行時にまっすぐ歩けなくなったりすることがあります。このような状態がつづくと、ふとした拍子に転倒しやすくなります。

4. 薬の服用による副作用

4つ目の理由が、薬の服用による副作用です。高齢になると認知症だけでなく、そのほかの病気を患うことも珍しくないため、さまざまな薬を服用している方もいるでしょう。

薬のなかには、眠気やふらつきなどの転倒リスクを高める副作用を持つものもあります2。そのような副作用が重なることで、転倒しやすい状態になります。

認知症の方が転倒したときの影響

認知症の方が転倒すると、さまざまな悪影響が生じる可能性があります。とくに注意すべきなのが、転倒による骨折です。

認知症の方は、そうでない方と比較して転倒による骨折のリスクが高いとされています。さらに、認知症の方が骨折すると入院期間も長くなる傾向にあります4

入院による環境の変化や活動量の低下によって認知症の症状がさらに進行すると、家族の介護負担も大きくなる恐れもあるでしょう。

高齢者の転倒が起きやすい場所は?

高齢者の転倒が発生する場所は、自宅内が多いとされています5。家のなかで転倒しやすい場所としては、玄関や居間などがあげられます6

このような場所では、以下のようなつまずきやすい要素が多く、家具の配置によっては動線(移動時の経路)も複雑になりがちです。

 大小細かな段差
電気コード
めくれやすいカーペット
 床に置いてある本や新聞紙

そのほかにも階段や、床が濡れて滑りやすい浴室もバランスを崩しやすい場所といえます。自宅環境はそれぞれ異なるので、どこで転倒が起きやすいかを把握しておくことが重要です。

認知症の方の転倒を防ぐためのポイント

認知症の方の転倒を防ぐためには、どのような工夫をすればいいのでしょうか。ここでは、具体的な転倒予防策をご紹介します。

転倒が起きやすい環境の見直し

自宅内で転倒が起きやすい場所を把握しつつ、環境の見直しをしてみましょう。前述したように、転倒は自宅内で起こりやすく、とくに玄関や居間などには十分に注意が必要です。

転倒を防ぐためには、以下のような工夫を検討しましょう。

居間や廊下には物を置かないようにする
動線にコンセントのコードを置かない
 コードは壁や部屋の奥にまとめる
小さい段差はスロープを設置する
 大きい段差の前には台やイスを設置する
 廊下や階段には手すりを設置する
 浴室には滑り止めマットを敷く

生活環境を確認し、危険と思われる場所を見直すことで、転倒リスクの軽減につながります。

リハビリによる身体機能の維持・向上

リハビリによって身体機能の衰えを防ぐことで、転倒予防が期待できます。また、適度な運動は認知症対策に有効という報告もあります7

運動内容はきついものではなく、無理のない範囲で行える筋トレや有酸素運動がおすすめです。筋トレの場合、以下のような自宅でも気軽に行える自重トレーニングで足腰を鍛えられます。

もも上げ
膝伸ばし
スクワット
かかと上げ
腹筋運動

このような運動は、実際の臨床現場でも認知症に対するリハビリとして行われることがあります。有酸素運動の場合は、負荷量が軽いウォーキングからはじめてみましょう。

有酸素運動は45〜60分間の運動を週に3回行うことが推奨されていますが、難しい場合は頻度や時間を調整して、継続できる範囲で行うことが大切です7

ウォーキングの効果について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

家でこうした取り組みをするのが難しい場合、通所リハビリや訪問リハビリなど、リハビリを受けられる介護サービスを利用するのもおすすめです。

判断に迷う場合は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみましょう。

服用している薬の見直し

服用している薬の種類や量によっては、副作用で転倒リスクが高まる恐れがあります。もし気になることがある場合には、薬の種類や服用時間の調整について早めに医師に相談することが大切です。

また、医師や薬剤師から指導を受けることで副作用への理解が深まり、上手な服薬管理を行えます。服用している薬が気になる場合は、決して自己判断で服用を止めたりせず、必ず医師に相談しましょう。

認知症の方にあわせた転倒予防策を実施しよう

認知症の方が転倒しやすい主な理由として、「理解力・判断力の低下」「焦りや妄想などの症状」「バランス能力の低下」「薬による副作用」があげられます。認知症の方が転倒すると骨折や入院のリスクも高まりやすく、介護がさらに必要となる要因となります。

転倒を予防するためには、自宅で転びやすい場所を把握しつつ、環境を整備することが大切です。また、リハビリによって身体機能を高めることや、服用している薬の見直しについて医師に相談することなども行ってみましょう。

(参考文献)
1, 鈴木みずえ:認知症高齢者の転倒予防:認知症高齢者の視点からの転倒予防のエビデンスと実践. 日転倒予会誌. 2016;2(3):3-9.
2, 征矢野あや子:認知症のある高齢者の転倒予防. 日転倒予会誌. 2014;1(1):17-21.
3,日本神経学会:認知症疾患診療ガイドライン2017:2章 症候,評価尺度,検査,診断. [https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_02.pdf](最終閲覧日:2025年2月10日)
4, 杉本大貴:軽度認知障害および認知症における転倒の実態:疫学データ. 日転倒予会誌. 2023;10:37-43.
5, 消費者庁:毎日が#転倒予防の日〜できることから転倒予防の取り組みを行いましょう;参考資料. [https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_055/assets/consumer_safety_cms205_211005_02.pdf](最終閲覧日:2025年2月10日)
6, 内閣府:平成17年度 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果(全体);2 転倒事故. [https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h17_sougou/19html/2syou-2.html](最終閲覧日:2025年2月10日)
7, 田中尚文:認知症リハビリテーションの現状とエビデンス. Jpn J Rehabil Med. 2018;55(8):653-57.