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【認知症と自動車】病気の知識も大切です。認知症の原因疾患によって運転行動や事故の傾向が異なります

【認知症と自動車】病気の知識も大切です。認知症の原因疾患によって運転行動や事故の傾向が異なります

社会の動きを知りましょう。
高齢ドライバーによる交通事故防止対策が厳格化されました。

令和4年5月13日 改正道路交通法が施行

高齢運転者対策の充実・強化を図るため、75歳以上の免許更新手続きについて以下の3点が改正されました。

  1. 認知機能検査の内容の簡素化
    これまで認知機能検査の項目から「時計描画」がなくなりました。
  2. 高齢者講習の一元化
    これまで2時間講習・3時間講習に分かれていた高齢者講習が、2時間の講習に一元化されました。
  3. 運動技能検査の導入
    過去3年以内に一定の違反がある人が対象となります。運転技能検査に合格しない場合、免許の更新はできません。免許更新手続期限まで複数回受検可能です。

【改正道路交通法】75歳以上の運転免許更新手続の流れ

改正道路交通法の施行について

警視庁資料「令和4年5月13日改正道路交通法の施行について」より(最終閲覧日:2022年8月8日)

上村直人先生が考える改正道路交通法のポイント

上村直人先生(高知大学保健管理センター医学部分室 准教授)

上村直人先生(高知大学保健管理センター医学部分室 准教授)

ーー今回の改正法に対して、上村先生はどのような点に注目していますか?

上村先生:私はポイントが4つあると考えています。

【その1】運動技能検査の導入 ⇒ 運転能力そのものを評価

過去3年以内に信号無視や速度超過、前方不注意など一定の違反をした75歳以上の高齢ドライバーは、免許更新時に認知機能検査に加えて「運転技能検査(実車試験)」を受けることが義務付けられました。

一時停止や右左折の正確性などが減点方式で評価され、100点満点中70点以上で合格、信号無視や逆走は一発でアウトです。

私は以前から、運転の可否は認知症の有無だけでなく、運転能力そのものによって判断されるべきと考えていましたが、今回の改正でそのようなかたちになりました。

ーー上村先生をはじめ認知症の専門医の先生方は、「認知症でなくても危険な運転をする高齢者もいるし、認知症であってもごく初期なら安全に運転できる人もいる」と主張されてきました。そうした考えに近くなったわけですね。

上村先生:ようやくという印象はありますが、一歩前進したのは確かです。ただ、改正道路交通法においても認知症と診断された場合は運転免許の取り消し・停止となります。

また、誤解している人も多いようですが、運転技能検査に合格すれば自動的に免許更新可能となるわけではありません。認知機能検査は必須です。

そこで「認知症のおそれあり」となれば専門医の診断を受けることになります。

【その2】認知機能検査の簡素化

改正前の検査項目は「時間の見当識・手がかり再生・時計描画」の3項目でしたが、時計描画が廃止されて2項目に減りました。

また、改正前は認知機能検査の結果によって「第1分類(認知症の疑いあり)」「第2分類(認知機能低下の疑いあり)」「第3分類(認知機能低下の疑いなし)」の3つに分けていましたが、改正後は認知症のおそれがあるかないかの2分類になりました。

タブレットによる実施(設問表示とタッチパネルでの自筆回答)、基準点に達した時点で検査終了といった方式の導入も簡素化の流れの一環です。

【その3】 「サポカー限定免許」の導入

「安全運転サポート車(サポカー)限定免許」も導入されました。

この免許では、「衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)」と「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」を備えた車しか運転できません。それ以外の車を運転した場合は運転免許証不携帯扱いで2点の減点となります。

ーー認知症の有無とサポカー限定免許とはどういう関係があるのでしょうか?

上村先生:これも誤解があるようですが、認知症かどうかとは関係ありません。サポカー限定免許への切り替えは高齢者の自主的な申請によります。

運転能力によって強制されるものではないし、認知症でもサポカー限定免許なら保有できるというものでもありません。

希望者による任意の申請ということで、サポカー限定免許制度をもって万全の危険運転対策とはいえませんが、社会全体の安全運転への意識を高めるという意義は大きいと思います。

【その4】診断書提出命令の対象拡大

上村先生:今回の改正に伴い、病気などのために運転に不安がある高齢ドライバーの情報を警察(都道府県公安委員会)が得た場合、違反や事故はなくても診断書の提出を命じられるようになりました。

危険運転について家族から相談を受けた保健や介護の専門職が、家族の同意のもとで警察に情報を提供し、診断書提出命令が出るケースもあるでしょう。

命令に従わないと免許停止(保留)処分の対象となりますので、専門医療機関を受診する高齢ドライバーの増加が予想されます。

運転行動・運転能力と認知症との関係

病気の知識も大切です。
認知症の原因疾患によって運転行動や事故の傾向が異なります。

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ーー認知症になると、運転にどのような問題が生じやすくなるのでしょうか?

上村先生:私たちの研究の結果、認知症の原因疾患によって運転行動や事故の傾向が異なることがわかりました

アルツハイマー型認知症

  • 記憶障害が目立つため、行き先を忘れてしまう迷子運転などがみられます。たとえば近所のスーパーに行くつもりが、運転中にどこに向かっているのかわからなくなり、見当違いの方向に行ってしまうこともあります。
  • 視空間認知能力(距離感)も低下するため、車庫入れや幅寄せがうまくできず、接触事故が起こりやすくなります。

脳血管性認知症

  • 脳のどの部分が障害されるかによって、症状も運転行動も異なります。
  • 認知力や判断力、記憶力が変動する特徴があり、ボーっとしているときは速度維持が困難になりがちです。のろのろ運転をして、後続車に衝突される事故も起きています。
  • 動作が緩慢になるのも特徴で、ブレーキペダルやギアなどの操作の遅れが事故の原因になることもあります。

前頭側頭型認知症

  • 本能や行動欲求を抑えている前頭葉がダメージを受けるため、「脱抑制」という症状がみられます。交通ルールはわかっていても、「こっちに行きたい」という欲求を抑え切れず、信号無視や逆走をしてしまうこともありえます。
  • 注意散漫による脇見運転が多いのも特徴です。
  • 前頭側頭型認知症はアルツハイマー型認知症に比べて10.4倍も交通事故が起こりやすいという報告があります

レビー小体型認知症

  • レビー小体型認知症と運転能力との関係については医学的な検討がほとんど行われていません。ただ、運転シミュレータを用いた研究ではありますが、速度超過、センターライン超え、赤信号の見落とし、衝突事故が多く、注意障害や視空間認知障害などの症状が原因と推測されています
  • レビー小体型認知症は他の認知症原因疾患に比べて病気の自覚がある人が多いので、運転事故のリスクを説明すると免許を返納していただける率が高い印象があります。それだけに早期発見が大切です。

ーー認知症と交通事故のリスクとの関係は、高齢ドライバーやその家族も知っておきたい情報ですね。

上村先生:一つ注意してほしいのは、認知症ではこうした運転行動、事故が多い傾向があるという話であって、そのような運転行動、事故があればイコール認知症ということではありません。

たとえば、認知症による注意障害は交通事故の原因の一つですが、注意機能は認知症だけでなく、ADHD(注意欠如多動性障害)などの疾患でも損なわれます。ですから交通事故を防ぐためには、どういう病気かは別として、本人や周囲の人が運転能力の低下、危険運転の兆候に早く気づくということが大切です。

運転能力の目安があります。「運転行動チェックリスト」で問題点を確認しましょう

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本人と家族の話し合いのきっかけ

ーー運転能力の低下に早く気づくためには、具体的にどういう点に注目すればよいのでしょうか?

上村先生:認知症も含め、病気などによって記憶力、注意力、視空間認知能力、自己コントロール力などが低下したときにみられる危険な運転行動を10項目に整理し、チェックリストを作成しました。

複数の項目にチェックが入った場合は医療機関や警察に相談することをお勧めしています。特に6の「わき見運転」と10の「車間距離が維持できない」の両方に該当する場合は、交通事故を起こす危険性が非常に高くなるので注意が必要です。

原因となる病気は様々なので、病気を特定するツールではないにしても、受診のきっかけになるわけですね。

そう思います。チェックリストに当てはまる場合は、認知症の始まりかもしれませんし、先ほど述べたADHD(注意欠如多動性障害)だったり、あるいは糖尿病治療中の人が低血糖を起こして眠気に襲われたりしているのかもしれません。心臓病や睡眠時無呼吸症候群なども運転の支障となりえますので、治る病気を見逃さずにしっかり治療するためにも、一度医療機関に相談してみることをお勧めします。

ーーチェックリストを使った人からはどういう感想が届いていますか?

上村先生:新聞やテレビでチェックリストが紹介されたところ、「運転する高齢者本人と、同乗することの多い家族がそれぞれチェックをすることで、運転能力に対する認識の違いがわかった」「運転について家族で話し合うきっかけになった」といった感想をいただきました。

「今までは、“もう歳だから運転はやめて”、“危ないでしょう”と一方的に言いすぎていました。こうしたチェックリストを使い、“こういうこともあるよね”と本人と一緒に確認する、一緒に気づく機会も必要ですね」といった声も届いています。

自分の運転能力にプライドがあり、はたからとやかく言われるのを嫌う高齢者の方も多いでしょう。一方的に問題を指摘するのではなく、「こんなツールがあるからやってみない?」といったかたちで運転に目を向ける機会を作っていただければと思います。

運転行動チェックリスト

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高齢ドライバーとのコミュニケーション

気持ちを通わせましょう。
心配な思いを率直に本人に伝えましょう。

認知症と自動車について話す上村直人先生

ーー家族が医療機関への受診を勧めても、本人が拒否する場合もあると思います。そういうとき、家族はどのように話を持っていけばよいのでしょうか?

上村先生:本人の性格や家族との関係性によるので、「こう言えば納得してもらえる」という決まり文句はありません。一ついえるのは、あまり策を弄さないことですね。

たとえば、「最近、高齢者による運転事故が多いね」「この前も新聞に出ていたでしょう」と話題を振っておいて、「お父さんも歳だからお医者さんに診てもらわないと」と持ちかけても、「俺は大丈夫だ」で終わってしまう。

これはよくあるケースです。策を練っただけに家族は余計にがっかりしたり、頭にきたりしてしまいます。

もっと普通の感覚でいいと思いますよ。親のこと、夫のこと妻のことが大事だからこそ心配している──。そういう気持ちをストレートに言葉にしたほうがいい。高齢ドライバーによる事故のニュースを話題にするにしても、「だから何々しなければいけない」ではなく、「この人と年齢が近いから、お父さんのことが心配」といったメッセージを伝えることが大切です。

それでも拒絶されることはあるかもしれませんが、むきにならずに冷静に、次の機会を待ってまた気持ちを伝えてください。

家族から、あるいは受診した医師から運転免許証の返納を勧められても、簡単には受け入れられない人も多いと思います。事情はいろいろあるでしょう。たとえば公共交通機関が少ない地域では、運転をやめると生活そのものが成り立たないという問題が指摘されています。

免許を自主返納したあと、あるいは認知症と診断されて免許停止になったあとの生活をどうするか。これは家族だけの問題ではないし、医療だけで解決できる課題でもありません。

近年は、地方自治体がそれぞれ運転中止後の支援策を実施しており、生活支援に参加する企業も増えています。その成果もあるのでしょう。長年頭打ちだった高齢者の運転免許返納は急増し、2020年には約30万人(75歳以上)となりました(グラフ参照)。

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今後さらに、地域ごとの特徴を踏まえ、自治体の長の強いリーダーシップのもとでボランティアの協力なども得ながら、車に乗らなくなったあと、病気になったあとの生活環境を整えていく。今回の道路交通法改正も、そうした地域社会づくりのきっかけとして捉えてほしいと思います。

ーー生活環境、社会環境の問題に加え、どうしても運転をやめたくないという個人的な思いもあるでしょうね。

上村先生:私の経験上、二つのパターンがあります。一つは、運転というよりもドライブが好き、たとえば風景を見たくて車に乗るといったパターン。この場合は、家族や友だちが運転手を引き受け、こまめに本人をドライブに誘い出すことで運転をやめてもらえることがあります。

もう一つが、運転することに役割や生きがいを感じているパターン。たとえば、お孫さんの幼稚園・保育園の送り迎えすることで、「自分は役に立っている」と満足感を得ている人もいます。そうした場合は何か別の役割に置き換える──たとえば犬の散歩などをお願いすることで、運転への執着を解いてもらえるように勉めます。

一番難しいのは、運転が生きがい、運転そのものが好きというパターンです。好きなものを嫌いになれといっても無理です。私だって明日から医者をやめろといわれたら途方に暮れてしまうでしょう。

運転が生きがいという人の場合は、本人にとって何か運転と同じぐらい大切なものを見つけないとなかなか納得してもらえないでしょうね。

私はご家族に「ご本人が運転と同じぐらいこだわりを持っているものが何かありませんか?」とお尋ねし、生きがいを別のものに置き換えることを提案しています。

ーーやはり家族をはじめ周囲の人たちの支えが大切ということですね。どうもありがとうございました。

この記事の補足情報

参考文献

  1. 1.

    上村直人 他〔認知症患者の人権と自動車運転〕認知症患者の自動車運転の実態と医師の役割. 精神科. 2007; 11: 43-49

  2. 2.

    Fujito R, et al: Comparing the driving behaviours of individuals with frontotemporal lobar degeneration and those with Alzheimer's disease. Psychogeriatrics. 2016; 16(1):27-33

  3. 3.

    Yamin S, et al: Int J Alzheimers Dis. 2015; 2015: 806024.

著者情報

  • PROFILE/ プロフィール

    上村 直人

    高知大学保健管理センター医学部分室 准教授

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