予防・日々の心がけ
MCI(軽度認知障害)にならないために
今の生活を少しずつ変える
MCIは認知症へ進行する一歩手前の状態で、
1年で5〜15%の人が認知症へと進行することが知られています1,2)。糖尿病や高血圧、脂質異常症などが併存している場合、認知症への進行リスクはさらに高まります。
しかし、必ずしも全員が認知症へ進行するわけではありません。生活習慣の見直しや認知機能向上のための活動を行うことで、MCIのまま維持する、または認知機能が正常な状態に回復する可能性もあります。
- 1)
- Bruscoli M, et al: Int Psychogeriatr. 2004; 16(2): 129-140
- 2)
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』(第1版)p.11
普段の食事を見直す
食事は健康の維持や病気の発症・抑制にも重要であり、食事の内容や栄養が認知症のリスクと関わっていることが多くの研究で報告されています。
例えば、炭水化物を多く含む高カロリー食や低タンパク食、低脂肪食は、MCIや認知症のリスクを高める可能性があります3)。一方で、大豆や野菜、藻類、牛乳・乳製品の摂取は、認知症のリスクを軽減する効果が期待されます4, 5)。
どの食品や栄養素が最も効果的であるかについては、まだ明確な答えは出ていません。しかし、毎日の食事に気を使い、バランスの良い食生活を心がけることが大切です。
認知症やその他の健康リスクに対する予防として、食生活の見直しを検討することをおすすめします。特に中高年の方々は、これからの健康や認知機能のために、今からでも適切な食生活を取り入れることが大切です。
- 3)
- Roberts RO, et al: J Alzheimers Dis. 2012; 32(2): 329-339
- 4)
- Ozawa M, et al: J Am Geriatr Soc. 2014; 62(2): 1224-1230
- 5)
- Ozawa M, et al: Am J Clin Nutr. 2013; 97(5): 1076-1082
食生活の見直しについて、詳しくはこちら「『健康的な食事』認知機能を維持させるポイント」
運動を取り入れる
身体を動かすことが認知機能にさまざまな影響をもたらすことが、近年明らかになっています。
高齢者にとって、運動は筋肉や骨などの機能を保持し、脂質代謝を改善するだけでなく6)、有酸素運動や筋トレを行うことで認知機能の向上や記憶の維持が期待できるとされています7)。
定期的な運動によって、認知症やアルツハイマー型認知症の発症率が低下する可能性があると報告されています8, 9)。
特別なトレーニングは必要なく、ウォーキングや軽いジョギング、筋トレなどを日常に取り入れるだけで十分な効果が期待できます。さらに、運動中に計算やしりとりなどのデュアルタスクを取り入れることで、運動をしながら脳の活動をさらに活性化させることが期待できます。
デュアルタスク
デュアルタスクができる運動の例を、もっと見る「脳の活性化!運動+知的課題のブレパサイズ®」
- 6)
- 島田 裕之ら: 日本基礎理学療法学雑誌. 2015; 18(2): 13-18
- 7)
- 土井 剛彦ら: 運動疫学研究. 2017; 19(2): 102-109
- 8)
- Morgan GS, et al: J Alzheimers Dis. 2012; 31(3): 569-580
- 9)
- Sofi F, et al: J Intern Med. 2011; 269(1): 107-117
運動の取り入れ方について、詳しくはこちら「『身体活動』認知機能を維持させるポイント」
血糖の適切なコントロールを意識する
脳や認知機能に関連するMCIと血液の中の糖が多くなる糖尿病に関係がないよう感じられるかもしれません。しかし、MCIと糖尿病が併存していることは、両方の症状に対してさまざまな悪影響を及ぼします。
- 糖尿病患者は、認知症に至らない程度の認知機能の低下が起こりやすい10)
- 糖尿病の予備軍を含めてMCIが併存している場合は、認知症への移行率が高くなる11)
- 認知機能の低下は糖尿病の低血糖症状のリスクを約2倍にし、血糖コントロールが難しくなることで、患者本人のQOLの低下を引き起こすリスクが高まる悪循環に陥る12)
血糖値に異常がある場合は、できるだけ早く糖尿病の治療を開始しましょう。また、すでに糖尿病を患っている場合は、MCIであることをかかりつけ医に伝えた上で、適切な血糖コントロールを行いましょう。
- 10)
- Palta P, et al: J Int Neuropsychol Soc. 2014; 20(3): 278-291
- 11)
- Xu W, et al: Diabetes. 2010; 59(11): 2928-2935
- 12)
- 永渕 美樹ら: 日本糖尿病教育・看護学会誌. 2019; 23(2): 175-181
糖尿病の管理について、詳しくはこちら「『糖尿病の管理』認知機能を維持させるポイント」
メタボリックシンドロームを改善する
MCIでメタボリックシンドロームの診断を受けている方は、生活習慣や食事の見直しが必要です。
中年期におけるメタボリックシンドロームは、認知機能の低下とも関連があることが研究により報告されています13)。
- MCIとメタボリックシンドロームが併存している患者では、認知症に進行するリスクが高い14)
-
MCIの時期に高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療を行った場合、治療していない場合と比較
してアルツハイマー型認知症への移行率が低い15)
メタボリックシンドロームの原因となる疾患やリスク因子の治療・管理を積極的に行うことで、認知症への進行を予防・抑制する可能性があります。運動や食生活を整え、日常生活の中での自己管理の徹底を心がけましょう。
- 13)
- Yates KF, et al: Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2012; 32(9): 2060-2067
- 14)
- Panza F, et al: J Alzheimers Dis. 2010; 21(3): 691-724
- 15)
- Li J, et al: Neurology. 2011; 76(17): 1485-1491
その他の認知機能を維持するポイントについて、詳しくはこちら「認知機能を維持向上させる12のポイント」
- 記事監修:
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東京都健康長寿医療センター 副院長 /
脳神経内科部長 岩田 淳 先生