認知機能は、判断、実行、記憶など日常生活に欠かせない機能ですが、加齢に伴い徐々に低下していく傾向にあります。
認知症は、さまざまな脳の病気により認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態とされています1, 2。年齢相応のもの忘れや判断能力の低下より明らかな認知機能の低下がみられたら、認知症を疑いましょう。
本記事では認知機能について簡単に解説し、認知症との関連、維持する方法について説明します。認知機能と認知症をより深く理解するために、ぜひ参考にしてください。
認知機能の概要
認知機能とは、認識した情報を脳が処理して理解し、適切に判断や行動をするために必要な機能の総称です。
特定の情報に注意を向ける、短期的・長期的に記憶する、見えている物を空間的に把握する、動作のまねをする、言葉を理解する、ある目的を順序立ててやりとげるなどを組み合わせた複雑な判断や行動は、認知機能が働くことにより可能になります。
具体的には買い物をする時の商品の選択やおつりの計算、目的地までの移動、人との会話など、日常生活のあらゆる場面でこれらの認知機能が活用されています。
認知症と関わりのある6つの認知機能
ここでは、認知症と関わりのある6つの認知機能を紹介します。日本精神神経学会では、認知症の診断時に以下の6つの認知機能を定義しています2。
- ・複雑性注意
・遂行機能
・学習および記憶
・言語
・知覚−運動
・社会的認知
それぞれの認知機能について、少し掘り下げて説明をします。
複雑性注意
認知症関連での「注意」の表現は、注意・忠告(warning)ではなく、注意を向ける・払う(attention)の意味で用いられます。
複雑性注意とは、注意力を維持したり振り分けたりする機能のことで、認知機能のなかでも大切な役割を担っています。情報を認識し取捨選択をするため、例えば、テレビや音楽を聞きながら会話をする、選択肢を選ぶ、複数の情報から素早く判断するなどさまざまな場面で必要とされる機能になります。
複雑性注意が低下すると、周囲の声や他者の動きに注意がそれやすくなったり、周囲の状況に応じて行動や判断を修正・転換することができなくなったりします。注意がそれてしまうと、情報を認識することがおろそかになってしまうため、本人に何度も同じことを伝えなければならなかったり、転倒しやすくなったりします。
また、状況に応じた修正や転換ができなくなると、運転中の事故につながってしまいます。これらは認知症の初期段階でもみられる症状です。
遂行機能
遂行機能とは実行機能ともいわれ、目標に向かって計画を立て、その時々の状況に合わせて目標に向かって遂行する機能のことです3。遂行機能が低下すると、手順を決めて開始した動作を行うことや、作業途中の状況を記憶することができなくなってしまいます。
このため、「自炊の料理の品数が減った」「いつもの仕事をこなすのに時間がかかるようになった」などの変化がみられるようになります。
学習および記憶
学習および記憶とは新しい情報を学習したり、以前に学習していた情報を思い出したりする機能を指します。一般的に認知症というと、この機能の障害を連想することが多いはずです。
ここで注意したいのは、加齢によって起こりうる病的ではないもの忘れと、認知症による記憶障害は異なることです。加齢によるもの忘れは、出来事の記憶における時間・場所・人などの内容があいまいになります。一方で、認知症による記憶障害は出来事そのものの記憶がまるごとないという特徴があります。
例えば、朝食を食べた際、加齢に伴うもの忘れの場合は「朝食の内容」を忘れてしまい、認知症によるもの忘れは「朝食を食べたことそのもの」を忘れてしまいます。
言語
言語は言葉の理解と表出の機能です3。言葉の理解とは、音の中から意味のある言葉を認識することや、文字をみて単語や文章全体を読み解くことなどを指します。
言葉の表出とは、認識した言葉をまねをして繰り返したり、ものの名称を答えたり、会話の内容に沿って自分の考えなどを言葉で表現することを指します。
言語の機能が低下すると、会話や本の内容の理解が難しくなったり、自分の思いを上手に伝えられなくなったりします4。
知覚−運動
知覚とは五感などの感覚器を使って物事や自己の状態を理解することで、運動とは道具の使用などの一連の意味のある行動をする能力のことです3。この知覚−運動機能が低下すると、失行や失認という症状がみられる場合があります。
失行とは、これまでできていた一連の意味のある動作ができなくなることを指します。失行の種類にもよりますが、挨拶の意味でバイバイと手を振る、急須をみてお茶を連想してお茶を淹れる動作に至るなど、認知機能が保たれていれば考えて行う必要のないはずの日常的な動作が困難になってしまいます。
失認は見えているものが何なのか理解できない、顔が分からないなどの状態を指します。失認の状態では、目の前に歯ブラシがあっても、固いものの一部に細くて柔らかいものが引っ付いているなにかが目の前にあるという認識になってしまいます。
また、認知症では幻覚などの症状が見られる場合もあります。
社会的認知
社会的認知とは人の気持ちに配慮したり、表情を適切に把握する能力です3。
社会的認知機能が障害されると、他人に共感することができなくなったり、抑制がきかなくなって社会規範から外れた行動を意図せず行ってしまうことがあります6。
このため周囲の人が何を考えているのかわからず、孤立感を持ちやすくなります。
認知機能の代表的な評価方法
認知機能の評価は、認知機能検査方法を用いて総合的に行われます。代表的な検査として、改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)とMMSE検査があります7。
いずれの検査も、所要時間は10分程度です。自分の年齢や場所、時間の理解、簡単な計算、記憶、言葉を連想する速さ、文章を書いたり、図形を模写するなどの項目で評価します。
いずれの検査も30点満点で評価します。HDS-Rは20点以下、MMSEは23点以下で認知症を疑うとされていますが、もともとの認知機能レベルにも個体差があるため一概には言えません。総得点で判断することよりも、各項目の得失点によってどの分野の認知機能障害があるのかを把握することが重要です。
また、これらの認知機能検査が役に立つのは、「急に認知症が進んだかもしれない」と心配した時です。あらたに検査を行って以前行った際の点数と比較することで、認知症の進行が通常の範囲内かそれとも急激な進行で何か新たな疾患を疑うべきかなどを考えることが可能になります。
認知機能を維持させる方法
認知機能をできるかぎり維持させる方法として、以下の5つを紹介します。
・有酸素運動
・知的活動
・社会的交流
・趣味や学習
・バランスの良い食事と十分な睡眠
日常生活に無理なく取り入れられる活動を選び、自分にあった方法を組み合わせることでより良い刺激を与えることができます。まずは自分が得意なことから、積極的に取り組みましょう。
有酸素運動(ウォーキング、水泳など)
有酸素運動は、認知症と関係の深い前頭前野や海馬の血流を改善することが知られています8。また、近年の研究ではアルツハイマー病でみられるアミロイドβというタンパク質の蓄積が運動をすることで抑制されることも明らかになっています9。
ウォーキングであれば、具体的には約8,000歩以上を目標にすると良いという報告もあります10。どなたでも取り入れやすい方法なので、積極的に日常生活に取り入れることをおすすめします。
知的活動(読書、パズル、将棋など)
認知機能を維持させるためには、運動だけでなく、脳を刺激する知的活動も取り入れるようにしましょう。知的活動の増加は認知機能ならびに心理的機能の変化に関係するという研究報告もあります11。知的活動といっても、難しいことをする必要はありません。読書やパズルを楽しむなど、集中して取り組めそうなものを見つけましょう。重要なのは楽しんで取り組むことです。
社会的交流(地域活動、ボランティア)
社会との交流を持ち続けることは、心の健康にも重要であり、交流が増えることで生きがいを感じることができます12。特技や趣味などはボランティアにも生かすことができるため、ぜひ参加してみましょう。
趣味や学習(絵画、音楽、語学など)
もし趣味にしたいことや勉強したいことがある方は、さっそくはじめましょう。趣味や学習は、認知機能を維持するために効果的であることがわかっています13。
バランスの良い食事と十分な睡眠
認知機能を維持するためにも、バランスの良い食事と十分な睡眠は大切です。心臓病や動脈硬化症を予防するような食事は、脳血管性認知症やアルツハイマー型認知症の予防に有効と言われています14。睡眠不足や過度な飲酒を避け、規則正しい生活を送りましょう14。
まとめ
認知機能と認知症との関連についての知識を深めることで、より早く認知機能低下のサインに気づくことができます。
早めにこのサインに気づき、認知機能を維持するなどの工夫をすることで、よりいきいきとした生活を送ることができると良いですね。