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日本人の最大の認知症のリスク因子は難聴?|東海大・和佐野浩一郎教授が語る難聴対策の重要性

日本人の最大の認知症のリスク因子は難聴?|東海大・和佐野浩一郎教授が語る難聴対策の重要性

現代の医学において予防は難しいと考えられている認知症。

もちろん、発症には加齢や遺伝など避けられない要因も大きく、すべてが予防できるわけではありませんが、日本における認知症のうち、およそ4割は生活習慣や健康状態の改善によって予防できる可能性があることが、最新の研究で明らかになりました。

特に影響が大きいのは、難聴や運動不足など、私たちにとって身近な要因です。すべての危険因子を10%改善すれば、20万人以上の認知症の発症を抑えられる可能性も示されています

認知症の発症を遅らせるためには、具体的にどのような対策が有効なのでしょうか。この“The potential for dementia prevention in Japan: a population attributable fraction calculation for 14 modifiable risk factors and estimates of the impact of risk factor reductions.”という研究の概要や実施背景、そして日常生活で気を付けるべきポイントなどについて、研究を主導した東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授の和佐野浩一郎先生と、テオリア・テクノロジーズ株式会社のリサーチャー冨田浩輝さんが対談しました。

日本における認知症リスク因子は難聴|他国のデータとの比較で見えた違い

  • 冨田さん

    こんにちは。エーザイグループのテオリア・テクノロジーズ株式会社で認知症領域のリサーチャーをしている冨田です。

    今回は東海大学の和佐野先生をお招きして、認知症予防に関する最新の研究についてお話を伺います。和佐野先生、よろしくお願いします。

  • 和佐野先生

    東海大学の和佐野です。耳鼻咽喉科・頭頸部外科の教授として、主に耳科領域の研究や診療に携わっています。今日はよろしくお願いします。

  • 冨田さん

    和佐野先生は、認知症の約4割はリスクの低減が可能であるという研究成果を、2026年1月に発表されました。

    早速ですが、まずは今回の研究成果の全容について教えていただけますか。

  • 和佐野先生

    この研究は、デンマークの国際共同研究グループと共に行ったものです。結果について簡単にご紹介すると、認知症の発症に関わるリスク要因を改善することで、国内の認知症の38.9%を予防できる可能性があることがわかりました

  • 冨田さん

    約40%というのは驚きです。リスク要因の改善が必要とのことですが、具体的にはどのようなものが挙げられるのでしょうか?

  • 和佐野先生

    例えば、運動不足や高血圧などが挙げられます。今回の研究では、以下のような認知症に関わる14のリスク要因について、日本国内のデータをもとに、その影響を分析しました。

    ここに挙げた14のリスク因子は、イギリスの医学誌『ランセット』の認知症委員会が2024年に示したものです。同誌の報告では、14のリスク要因を改善すれば、認知症の約45%のリスクを低減できるとされています

認知症の修正可能な14のリスク因子

認知症の修正可能な14のリスク因子(文献2を参考に作成)

  • 和佐野先生

    しかし、このランセット誌のデータは主に欧米を中心とした国際データに基づいたものであり、日本の社会構造や健康特性を十分に反映しているとは言えません。

    そこで、今回の研究では、信頼性の高い国内のデータを用いて、日本でどの程度認知症を予防できる可能性があるかを数値で示しました。

  • 冨田さん

    今回の研究では、日本のデータのみを使用している点が重要ですね。国際的な研究と比較して、日本特有の特徴や生活習慣の影響は見られましたか?

  • 和佐野先生

    研究の結果、難聴(6.7%)、運動不足(6.0%)、高LDLコレステロール(4.5%)は、特に影響が大きいことが判明しています。

    世界のデータと比較した際に、まず共通点として挙げられるのは、難聴です。難聴は世界共通で最も大きな因子であり、寄与率はおおむね6%台後半と、ほぼ同様の傾向が見られます

日本国内データを用いて算出した認知症発症に関する14のリスク因子に関する寄与割合

日本国内データを用いて算出した認知症発症に関する14のリスク因子に関する寄与割合(文献1を参考に作成)

  • 和佐野先生

    一方で、他国と大きく異なるのが運動不足です。グローバルデータには途上国も含まれており、車社会化が進んでいない地域では日常的に歩く機会が多く、身体活動量が高い傾向にあります。これに対して日本では、運動不足が2番目に大きな要因となっています

  • 冨田さん

    運動不足が2番目に大きな要因というのは少し驚きです。私たちが運動不足に陥りやすいのには、日本の生活環境などが関係しているのでしょうか。

  • 和佐野先生

    生活が便利になったことで、意識的に身体を動かさない限り、十分な運動が得られにくい環境になっているのではないでしょうか。

    日本人が運動不足に陥りやすい現状は決して個人の怠慢というわけではなく、社会環境の変化が私たちの活動量に関係している側面もあると考えられます。

認知症のリスクを下げるには?加齢性難聴予防のポイント

  • 冨田さん

    国内外を問わず、難聴が最もリスクの高い因子とのことですが、難聴と認知症の発症との関連性については、どのようにお考えですか。

  • 和佐野先生

    難聴が最大のリスク因子となる背景には、聴覚が常に働いていることが関係しているのではないかと考えています。私たちは、置かれている環境に応じて、周囲の音を必要な音と不要な音に無意識のうちに聞き分けています。

    しかし、難聴になると、そもそも入ってくる音の情報量が減ってしまいます。その結果、これまで無意識に行っていた音の選別が十分に行われなくなり、脳が処理する情報も限られてしまうのです。

  • 冨田さん

    無意識に行っていた処理が減ることで、脳が使われない状態に慣れてしまうのですね。

  • 和佐野先生

    入ってくる音情報が制限された状態では、脳全体の活動量が低下し、必要なときにだけ情報を取り込むような働き方になります。

    認知症の発症メカニズムについては、現時点で明確な結論は出ていませんが、慢性的な脳活動の低下が一因となっている可能性が高いと見ています。

  • 冨田さん

    脳への刺激が減ることが、認知症の発症につながる可能性があるということですね。私自身、難聴や視力の低下と要介護・認知症との関連性を研究する中で、生活範囲が狭くなることも影響しているのではないかと感じています。

    難聴とフレイル、そして認知症には、やはり関係があるのでしょうか。

  • 和佐野先生

    おっしゃる通り、難聴はコミュニケーションの減少や外出機会の低下を通じて、身体活動量の低下につながることが知られています。活動範囲の縮小や社会的な孤立は、フレイルの進行とも深く関係しています。

    フレイルは、身体的な衰えだけでなく、うつ状態などの心理的要因や、社会的孤立といった側面も含む、多面的な概念です。そして難聴は、身体・心理・社会という複数の側面に影響を及ぼすことが指摘されています。

  • 冨田さん

    聞こえにくさがきっかけとなって、活動量の低下や気分の落ち込みなど、さまざまな要因が複雑に絡み合いながら進行していくのですね。

  • 和佐野先生

    難聴は単独で作用するというよりも、複数の要因を通じてフレイルを進行させ、その結果として認知症リスクを高める可能性があると考えられます。

    フレイルは介護の前段階とされることからも、認知症予防の観点では、難聴への対策が有効だといえるでしょう。

  • 冨田さん

    脳のメカニズムを伺うと、難聴をできるだけ進行させないことが認知症予防には重要だと感じます。難聴を予防するためには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。

  • 和佐野先生

    加齢性難聴の予防に絞ってお話すると、日常生活でまず意識していただきたいのは、大きな音を聞きすぎないことです。

    強い音に長時間さらされると、騒音性難聴を引き起こし、日常のさまざまな音が聞き取りにくくなるおそれがあります。周囲がうるさいからと音を上げず、適度な音量を保ちましょう。

  • 冨田さん

    まずは耳そのものを大きな音から守ることが第一歩なのですね。生活の中でほかに意識できる予防策は何かあるのでしょうか。

  • 和佐野先生

    そのうえで重要になるのが、動脈硬化の予防です。糖尿病や脂質異常症といった動脈硬化のリスクは、耳の働きにも影響します。血管が硬くなると耳の中の血流が悪くなり、難聴が進行しやすくなるためです。

    そのため、音の聞き方に注意することに加え、生活習慣病を予防することも大切です。 

難聴の初期症状と補聴器の購入を検討するタイミングの目安

  • 冨田さん

    日常的に難聴に気をつけていても、加齢に伴って聞こえにくくなることは少なくないと感じています。日常生活の中で、ご本人やご家族が「もしかして難聴かも?」と気づけるようなセルフチェックの目安はありますか。

  • 和佐野先生

    わかりやすい例としては、家族と同じ場所でテレビを見ていても音が聞き取りにくい、複数人での会話になると内容が追いづらくなる、といったものが挙げられます。

    難聴は認知症と同様に、ご自身では気づかないうちに少しずつ進行していくものです。ご自身の現在の「聞こえ」の状態を把握するために、一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の聴こえのセルフチェックを確認することをオススメします。

聴こえのセルフチェック

聴こえのセルフチェック(文献4より許可を得て掲載)

  • 和佐野先生

    また、「加藤さん」と「佐藤さん」を聞き間違えるといったように、子音の聞き取りにくさが目立つのも特徴の1つです。難聴は認知症と同様に、徐々に進行していくものです。

    聞き返しが増えたり、名前を間違える症状に心当たりがあれば、難聴の可能性を一度考えてみると良いでしょう。

  • 冨田さん

    こうしてチェックリストで見ると、「テレビの音量」や「会話のズレ」といった初期サインは、ご本人よりも周囲のご家族のほうが先に気づきやすそうですね。

  • 和佐野先生

    おっしゃる通りです。実際、「最近テレビの音が大きくない?」とご家族に言われたり、会話が噛み合わなくなってきたことを指摘されたりして、受診に繋がるケースは少なくありません。

  • 冨田さん

    もしチェックリストに複数当てはまった場合、次のステップとして補聴器の導入が挙げられるかと思います。補聴器を検討するタイミングについて、先生はどのようにお考えでしょうか。

  • 和佐野先生

    補聴器の導入というと、自分が聞こえにくいと感じているかどうかを基準に考えがちです。しかし実際には、自覚症状だけを頼りに判断するのは難しいといえます。

  • 冨田さん

    実際のデータなどはあるのでしょうか?

  • 和佐野先生

    2025年に米国医師会の医学誌に掲載された研究では、難聴がある人ほど認知症の有病率が高い一方で、難聴を自覚しているかどうかと認知症の発症には明確な関連がみられませんでした。

    また、日本では難聴を自覚している人は約10%とされていますが、実際には軽度難聴以上の人は約3,000万人と推定されており、自覚と実態の間には大きな差があります。

  • 冨田さん

    約3,000万人ですか。

  • 和佐野先生

    そのため、周囲から聞き返しが増えたことなどを指摘された場合には、一度耳鼻咽喉科を受診し、聴力検査を受けることが望ましいでしょう。

    そして、難聴が確認された場合には、補聴器の使用を検討することが重要です。

  • 冨田さん

    たしかに早めの対策が重要ですね。ただ、補聴器をつければ、すぐに以前のような自然な聞こえ方が戻ってくるものなのでしょうか。

  • 和佐野先生

    補聴器を装着すると、それまで聞こえにくかった音が一度に入ってくるため、最初はうるさく感じることもあります。医療機関や認定補聴器専門店では試用期間が設けられているため、まずは試してみて、ご自身に合うかどうかを見極めるのが現実的です。

    もし現時点での導入が難しい場合は、数年後に再検討するなど、段階的に取り入れていくことをおすすめします。

補聴器はどこで買う? 事前に知っておきたい購入時のポイント

  • 冨田さん

    リハビリ専門職として、補聴器の購入やフィッティングについて関心があります。一般の方が補聴器を購入する際に、気をつけるべきポイントがあれば教えてください。

  • 和佐野先生

    重要なのは、認定補聴器専門店で購入することです。認定補聴器専門店とは、専門資格を持つスタッフが常駐し、専門的な調整や相談が受けられる店舗を指します。

    補聴器は眼鏡店や家電量販店などでも販売されていますが、フィッティングの専門家が常駐していない店舗で購入すると、自分に合った調整を受けられず、きちんと使用効果を発揮できない可能性があります。例えるなら、視力検査をしないで作った眼鏡をかけるようなものです。

  • 冨田さん

    購入する場所選びがそこまで重要だとは知りませんでした。どこに行けば確実なサポートが受けられるのでしょうか。

  • 和佐野先生

    認定補聴器専門店には、認定証書やステッカーなどが掲示されているため、事前に確認したうえでの来店をおすすめします。また、どこで購入すればよいか迷う場合には、耳鼻咽喉科で相談し、専門店を紹介してもらうのも一つの方法です。

    できれば、補聴器に関する知識を有する補聴器相談医に相談すると安心です。補聴器相談医は全国に約5,000人おり、ホームページで確認できるので、ぜひチェックしてみてください。適切な専門家のサポートを受けることが、補聴器を有効に活用するための第一歩となります。

  • 冨田さん

    お話を伺い、フィッティングの重要性を改めて感じています。補聴器のフィッティングを支援するうえで、デジタル技術の活用も可能ではないかと思うのですが、フィッティングに役立つようなデジタルツールや仕組みはあるのでしょうか。

  • 和佐野先生

    前提として、補聴器のフィッティングは一般にイメージされる以上に複雑です。補聴器は音の情報量を増やすものであるため、装着直後は「うるさい」と感じやすく、徐々に音量を上げながら慣れていく必要があります。

    また、聞こえ方は人によって異なるため、検査結果をもとに、どの音をどの程度補うかを細かく調整していきます。

  • 冨田さん

    たしかに、メガネのように「かけたらすぐによく見える(聞こえる)」というわけにはいかないのですね。

  • 和佐野先生

    現在は個別の聴力に合わせた微調整を支援するフィッティングソフトがあり、一定のデジタル化は進んでいますが、完全な自動化は容易ではありません。人は「うるさい」と感じると音量を下げたくなりますが、それでは十分な補聴効果が得られないためです。

    本人の快・不快の感覚だけに頼ってはいけないという点からも、専門職が関与しながら段階的に調整することが基本となります。

  • 冨田さん

    だからこそ専門職の伴走が不可欠なわけですね。とはいえ、何度も店舗に通って調整を繰り返すのは、少しハードルが高そうにも感じます。

  • 和佐野先生

    デジタル技術の活用は着実に進んでいますよ。たとえば、一部の補聴器ではスマートフォンと連携し、遠隔で専門家が調整を行う仕組みがすでに実用化されています。さらに、より手軽な選択肢として、市販のワイヤレスイヤホンを活用するような、新しいテクノロジーの動きもあります。

    最新のデジタル機器の中には、スマートフォンと連携させることで簡易的な聴力チェックを行い、それに基づく補聴機能を利用できるものも登場しています。バッテリーが切れてしまうので、常時の装着は難しいものの、軽度から中等度難聴のサポートとして、身近なスマートデバイスの進化による一定の補助効果が期待できるといえるでしょう。

難聴対策の社会実装を目指して

  • 冨田さん

    最後に、今回の研究の課題や今後の展望についてお聞かせください。

  • 和佐野先生

    今後の課題としては、難聴への介入、特に補聴器の使用によって、実際にどの程度認知症リスクを下げられるのかを明らかにすることが挙げられます。

    ただし、重要なのは、細かな数値そのものではなく、得られたエビデンスを社会の中でどう生かしていくかです。実際の対策による効果を長期的に検証していくことで、少しずつ、社会全体における認知症の負担を減少できればと考えています。

  • 冨田さん

    エビデンスを社会でどう生かすかという視点は非常に重要ですね。その一方で、社会実装を進める上では、利用者本人の金銭的な負担感も課題になりそうです。

  • 和佐野先生

    補聴器は高価なものというイメージを持たれがちですが、たとえば30万〜40万円の補聴器を5年間使用した場合、年間では約6万円、月あたりでは5,000円程度になります。

    もし、月5,000円ほどで認知症リスクの低減につながると考えれば、見方も変わってくるのではないでしょうか。

  • 冨田さん

    将来の健康に向けた投資と考えれば、印象が大きく変わりますね。そうした新しい視点や価値を広く知ってもらうことも重要になりそうです。

  • 和佐野先生

    今回の研究は、細かな数値を示すこと以上に、難聴対策は優先して取り組むべき課題であるという認識を広げることに意義があると考えています。

    難聴対策の優先度が高いという共通認識が社会に広がり、国や自治体の施策や啓発活動につながることで、結果として認知症の社会的負担の軽減に寄与していくことを期待しています。

J-MINT_荒井秀典

J-MINT研究|国立長寿医療研究センター・荒井秀典理事長が解説

この記事の補足情報

参考文献

  1. 1.

    Wasano K, et al:The potential for dementia prevention in Japan:a population attributable fraction calculation for 14 modifiable risk factors and estimates of the impact of risk factor reductions. The Lancet Regional Health - Western Pacific. 2026:66:101792.

  2. 2.

    Livingston G, et al:Dementia prevention, intervention, and care:2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628.

  3. 3.

    Fried LP,  et al:Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(3):M146-56.

  4. 4.

    一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会:聴こえのセルフチェック. 聴こえ8030運動. [https://kikoe8030.jibika.or.jp/#selfcheck](最終閲覧日:2026年8月14日)

著者情報

  • PROFILE/ プロフィール

    和佐野浩一郎

    東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学領域主任教授 2003年慶応義塾大学医学部卒業、同耳鼻咽喉科入局。静岡赤十字病院耳鼻咽喉科部長、東京医療センター聴覚障害研究室長などを経て、2025年から現職。東海大学病院感覚器疾患センター長。耳鼻咽喉科指導医(日本耳鼻咽喉科学会)、臨床遺伝専門医(日本人類遺伝学会)、頭頸部がん指導医(日本頭頸部外科学会)など。

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