アルツハイマー病を知る

アルツハイマー病の検査

もの忘れ外来での診療の流れ

認知症診療などに対応した「もの忘れ外来」を設置している医療機関では、さまざまな専門的な検査を通してもの忘れの原因を調べることができます。
一般的な診療の流れとしては、問診で病状、生活歴、職業歴、教育歴、家族歴、治療歴、生活環境を聞き、診察、検査所見などを積み重ねて診断を確定していきます。

  1. STEP 1

    相談表記入本人家族

  2. STEP 2

    医師による問診・診察本人家族

    問診

    既往歴、家族歴、家族状況、生活史、症状や思いを尋ねる

    診察

    一般内科的診察

    • 神経学的診察
    • 神経心理学的診察
  3. STEP 3-A

    患者本人
    (神経心理検査)

    心理士による認知機能検査

  4. STEP 3-B

    家族

    医師による病歴の聴取と指導

  5. STEP 4

    画像検査

  6. STEP 5

    本人・家族への説明

監修:東京都健康長寿医療センター 岩田 淳 先生
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.101-109を元に作成

アルツハイマー病を疑う場合に実施する検査

アルツハイマー病と診断するためには、まずさまざまな検査を行い、症状の原因となりうる他の疾患と鑑別(区別)していきます。ここで他の病気の可能性が除外された場合には、PET検査や脳脊髄液(CSF)検査によって脳内へのアミロイドベータの蓄積などを評価し、その結果を踏まえてアルツハイマー病と診断します。

問診からアルツハイマー病と診断されるまでの流れをまとめた図:問診 → 臨床診断(除外診断のための検査)神経心理学的検査、身体所見、血液検査、MRI/CT、SPECT → 必要に応じて PET検査、CFS検査 → アルツハイマー病と診断
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.521-522
岩田 淳:老年精神医学雑誌;33(7):643-648を元に作成

神経心理学的検査

認知機能を客観的に評価する検査です。多岐にわたる認知機能を短時間で簡便に評価できる「複合的認知機能検査」の代表的なものにMMSEやHDS-Rがあります。

神経心理学的検査の例

種類 内容
MMSE
Mini-Mental State Examination
  • 精神疾患における認知機能障害の測定指標として考案されたもので、認知症のスクリーニング検査として国際的に広く用いられている。
HDS-R
改訂 長谷川式簡易知能評価スケール
  • 認知症の診断補助を目的としたスクリーニングテストで、高齢者の負担軽減と日常生活動作の障害を配慮して動作性検査を排除している。
MoCA-J
Montreal Cognitive Assessment
  • 従来の認知症の簡易検査では健常範囲内と評価される被験者を対象に、主にMCIをスクリーニングする目的で開発され、臨床試験などで用いられることが多くなっている。
ADAS-Jcog.
Alzheimer's Disease Assessment Scale-cngnitive sub-scale
  • アルツハイマー型認知症の経時的な悪化を検出する指標として有用であると考えられている。
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.126-127を元に作成

MRI、CT検査

脳MRI、CTは脳の断面を撮影して脳の萎縮を評価する検査であり、アルツハイマー病では「海馬(かいば)」という領域の萎縮が特徴的です。

検査概要
  • MRIは強力な磁石と電波、CTはX線を使って、いずれも脳の断面を投影する
  • アルツハイマー病初期は海馬を中心とした側頭葉の内側部の萎縮が、進行とともに側頭頭頂葉から脳全体に萎縮が目立つようになる
  • MRIでは初期に見られる海馬の軽微な萎縮も確認できる

脳断面図

健康な人の脳とアルツハイマー病の人の脳の脳断面図。(それぞれの水平断と冠状断で、脳に違いが見られる)
画像提供:東京医科大学 高齢診療科 兼任教授 羽生 春夫 先生
監修:東京都健康長寿医療センター 岩田 淳 先生

SPECT検査

脳血流の状況を可視化することができる検査で、早期診断や鑑別診断に有効です。

検査概要
  • 微量の放射線を含む薬剤を体内に注射した後、その体内分布状況を画像化する
  • 認知症の疾患特異的な血流低下パターンがみられるため、早期診断や識別診断に有効である
  • 初期は海馬、頭頂葉、後部帯状回と呼ばれる領域の血流が低下し、進行とともに脳全体の血流低下が目立つようになる
  • 若年性アルツハイマー病の補助診断として重要である

アルツハイマー型認知症のSPECT画像

画像統計解析で、さまざまな角度からの血流が低下している部分に色をつけてわかるようにしたSPECT画像。
日医雑誌, 2018 147(特2):S200-203
池田学:認知症―専門医が語る診断・治療・ケア(中公新書), 2010, p.94-95

PET検査

脳病理※1から機能的変化※2を評価する検査で、アミロイド、タウ蛋白の分布状態を可視化することができます。

※1脳の組織や細胞の病的変化

※2脳の形態は保たれているが、働きが障害されていること

検査概要
  • 神経細胞などが取り込む性質を持つ薬剤を体内に注射した後、薬剤に含まれている微量の放射線の分布状況を画像化する
  • ただし、アミロイドPET、タウPETの撮影は保険未適用である

核医学検査(PET検査)と他の画像検査の違い

核医学検査とX線検査の違いを比較した図。X線検査では、体内を通過するX線の強さを画像化しますが、核医学検査では、体内の放射線同位元素の分布を画像化します。
監修:東京都健康長寿医療センター 岩田 淳 先生
一般社団法人 日本核医学会, 公益社団法人日本アイソトープ協会:PET検査Q&A(改訂4版)を元に作成

腰椎穿刺(脳脊髄液検査)

脳脊髄液を採取してタウ蛋白やアミロイドベータの量を測定する検査ですが、頭痛の合併症が生じる可能性があります。

検査概要
  • 背部から穿刺針を刺して、脳や脊髄の周りにある脳脊髄液を採取する
  • 神経細胞にアミロイドベータが蓄積すると脳脊髄液中のアミロイドベータが減少し、神経細胞機能に障害が発生すると脳脊髄液中にリン酸化タウ蛋白が放出される
  • 脊髄を刺さないので痛みはなく、基本的に安全な検査だが、頭痛(腰椎穿刺後頭痛)が生じることがある

脳脊髄液(CSF)検査の採取イメージ

腰椎穿刺:腰椎内のくも膜下腔に背部から穿刺針を刺し脳脊髄液を採取。被検者の体位:前かがみの姿勢で穿刺しやすい体位をとる。体位は、座位や側臥位などがある。
中島健二 他 編集:認知症ハンドブック 第2版(医学書院), 2020, p.176 / 松下亮一編集:月刊ナーシング 2009年4月増刊号.(学習研究社), 2009, p.200-201

記事監修:東京都健康長寿医療センター 副院長 / 脳神経内科部長 岩田 淳 先生

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