褥瘡(じょくそう)を知ろう。床ずれの症状と処置方法
寝たきりであったり、活動量が少なかったりする高齢者に起きやすい症状の1つが褥瘡(じょくそう)です。低栄養やサルコペニア、フレイルなど、発症のリスクとなる症状を合併していることが多い認知症の高齢者は、特に注意が必要です。褥瘡はひとたび悪化してしまうと、治るまでに時間がかかり、痛みや不快感が続くことになります。認知症の人の生活の質(QOL)を保つためには、介護者がその特徴や処置方法などを知り、発症や悪化を予防する適切なケアを心がけることが大切です。
褥瘡(床ずれ)とは?
身体の一部が長い時間圧迫されて血の流れが滞った状態が続くと、その部位の組織が損傷され、皮膚に赤みや内出血、水疱、びらん(皮膚がただれている状態)などが生じます。これを褥瘡(じょくそう)といい、一般的には「床ずれ」と呼ばれています。
加齢や低栄養、運動麻痺、尿・便失禁などの影響を強く受ける褥瘡は、認知症が進行して日常生活動作(ADL、移動や着替え、食事などの日常的な動作)が低下してくると、生じやすくなるとされています1。高度の認知症の場合、褥瘡の数が増えると死亡リスクの上昇につながるとの報告もあります2。認知症の介護では、褥瘡を発生させない、悪化させないためのケアが重要といえるのです。
褥瘡が起こりやすい部位と重症度の評価
褥瘡は、寝ているときや座っているときに圧迫されやすい、皮下脂肪が少なく骨が突出している部位にできやすいとされています3。
褥瘡のできやすい部位
特に体の動きが少ない寝たきりの方に多いため、
お尻の骨である仙骨部や、横を向いたときにあたりやすい腸骨にできやすい。
日総研 TK創傷管理2単元本文 褥瘡発生部位より作成4
同一の部位を長時間圧迫することが原因の1つであり、褥瘡は身体の動きが少ない寝たきりの人ほど発生しやすいといえます。仰臥位(仰向け)で寝ていることが多いとお尻の骨である仙骨部やかかと、側臥位(横向き)だと横を向いたときに床と接触しやすい左右の腸骨などが褥瘡の好発部位とされています。
軽症の褥瘡とその対応
軽症の褥瘡は、肌が赤くなっているのみのものも含まれます。褥瘡は症状の進行が早く、週単位で急速に進むこともあります。そして損傷が深くなるほど治りづらくなります。早い段階で適切に対処すれば短期間での治癒も期待できるため、軽症の時点でいかに気づくかが非常に重要といえるのです。
ただし、皮膚は褥瘡以外でも虫刺されや打撲など、さまざまな理由で赤みを帯びます。これらと褥瘡を見分ける方法の1つが指押し法です6。赤くなっている部分を3秒ほど人差し指で押してみます。褥瘡でない場合は、押している間は肌が白くなって赤みが消失し、離すと再び赤みが戻ります。一方、指で押しても赤みが消えず、離しても赤いままである場合は初期の褥瘡である可能性が疑われます。
褥瘡だった場合は、創部を清潔に保つ、こまめに体位を変えるといった対応のほか、必要に応じて外用剤の塗布や創面を保護するためのポリウレタンフィルムを用いる保存的治療を行います7。
中等症以上の褥瘡とその対応
もし症状が進行して、白色や緑色など感染したような膿の排出が見られたり、黒色などの壊死症状が出現した場合は、中等症以上の褥瘡の症状と考えられます。中等症以上で壊死組織がある場合には、壊死した部分を除去するデブリードマンという外科的な処置を医療機関で行う必要があります7。
中等症以上の症状であっても、軽症の場合と同様に皮膚を清潔に保つことに加え、適度な保湿と体の向きを頻繁に変えることが重要です。医療機関を受診して抗生剤などの外用薬を処方された場合は、塗布する回数など医師の指示に従って創部の治療を行います。
軽症の場合の処置方法を解説
褥瘡の症状が軽症の場合には、在宅介護でも介護者が対応できます。処置は2つの方法があります。
①身体の向きをこまめに変える
②創部に対する処置
①は、寝たきりなどで動けない人の身体の向きを2時間ごとに変えるのが基本です8。固いマットレスではなく柔らかいマットレスに変更したり、身体の向きを維持するためにクッションを使用するのもよいでしょう。寝たきりではない場合でも、座り続けるのではなく、家のなかでもよいので適度に歩いてください。いずれにしても、同じ姿勢のまま身体の特定の部位が長い時間圧迫されるような状態を避けることが重要になります。
②は、創部を清潔に保ちながら、適度な湿潤環境を作り、ドレッシング材(ポリウレタンフィルムなど傷を覆う医療用材料)などで創部を保護します。このような処置を怠ると、傷口から細菌感染症を起こすなどして、褥瘡がさらに悪化してしまうこともあります。
準備するもの
褥瘡の処置では下記の物品を使用します。処置をする前に揃っているか確認しましょう。
- 手袋
- ぬるま湯が入ったボトル(在宅介護であればペットボトルやキッチン洗剤の空ボトルなどでも代用可)
- 泡状の石鹸
- 症状に応じた抗生剤や保護剤などの薬剤
- 褥瘡部分を保護する保護剤
- 保護剤を貼付するためのテープ(必要に応じて)
- 処置用のシーツ
- おむつやパッド
- ゴミ袋
- はさみ
- ガーゼやティッシュペーパー
なお、ポケットという深い傷がある場合は、膿を除去するための綿棒を用意するなど、褥瘡の状態に応じて必要な物品を追加してください。
手順
褥瘡の処置は以下の手順で行います。
①手洗いをして手袋をつける
②体勢を整える
③創部を洗浄する
④薬を塗る
⑤体位を整える
①手洗いをして手袋をつける
まず介護する側とされる側、双方における感染予防の観点から、手洗いをしたあとに必ず手袋を装着します。手袋は使い捨てのものを使用し、処置の際に汚れてしまった場合は、新しいものに交換しましょう。
②体勢を整える
創部がよく見えるように身体の向きを変えます。体勢を保持しにくい場合は枕やタオルなどを使用したり、膝を曲げるなどして身体を安定させましょう。
やや体勢を斜めにして、ベッドと身体の間におむつや処置用シーツを敷いておくと、創部を洗浄する水の受け皿となり、シーツやカバーを濡らさずにすみます。
注意する点として、介助者が処置しやすいだけでなく、介助される人が不快だったり痛みを感じたりしない体勢で行うことが挙げられます。また体勢を整える際に創部の観察や、創部以外に新しい褥瘡ができていないかもチェックしましょう。新しい褥瘡の早期発見は非常に重要です。
③創部を洗浄する
創部の保護剤を優しく剥がします。肌を押さえながら肌と水平に引っ張るようにすると、周囲の肌へのダメージを少なく剥がすことができます。
創部とガーゼなどの保護剤がくっついてしまっている場合は、ぬるま湯で流しながら剥がすとよいでしょう。
洗浄の際は、創部とその周りで洗い方が異なる点に注意しましょう。創部の周りは泡状の洗浄剤で、創部はぬるま湯をかけながら手袋を装着した手で優しく洗います。清潔性を保つため、洗浄後は手袋を交換しましょう。
④薬を塗る
濡れている創部やその周辺を不織布(ガーゼ)でふき取ります。そして医師から処方された抗生剤や保湿剤などを塗布します。外用薬が複数ある場合は、薬剤を塗布する順番や保護剤の交換頻度は医師の指示を守ることが大切です。
薬剤を塗布してから、ガーゼやドレッシング剤などの保護剤を貼付していきます。テープを用いて保護剤を貼る場合にはテープの中央を先に押さえてから、外側を押さえて貼りましょう。引っ張りながら貼ると圧力がかかり、新たな褥瘡の原因になる可能性もあるので注意してください。
⑤体位を整える
最後に体位を整えます。創部を避けるように枕やタオルを使用して、体位を整えるようにしましょう。処置前は左側向きに横になっていた場合は、次の2時間は右向きにしましょう。
褥瘡を予防するには
実際の処置の流れを見ればわかると思いますが、褥瘡の有無で介護の負担は大きく変わってきます。早期の対応も大切ですが、そもそもならないにこしたことはありません。褥瘡を予防するには、以下の4つを心がけるとよいでしょう。
①体位変換
体位変換は基本的には2時間おきに行いましょう8。体圧分散マットレスを使用している場合は、4時間以内の間隔でよいとされています8。
②体圧分散寝具の使用
褥瘡の発生率を低下させるには体圧分散マットレスの使用が有効とされています10。体圧分散マットレスは、沈み込みと包み込みによって身体の接地面を増やすことで、特定の部位にかかる体圧を分散する寝具です。機能や材質などによって種類が複数ありますが、自力で体位変換ができない人には、圧切替型エアマットレスの使用が推奨されています10。使用する人の体形や姿勢に合わせて空気圧を切り替えることが可能です。
③栄養状態の改善
④スキンケア
皮膚を洗浄するときは、強くこすらずにやさしく、石鹸を使う場合はよく泡立て、十分に洗い流してください。
褥瘡の介護に無理は禁物
まとめ
早期に適切な処置を行って悪化を防ぐこと、発生しないように予防に努めること、ケアを行う際は念入りに観察して新たな褥瘡を見逃さないことが重要といえます。もし家庭内での対応が難しい場合は、医療機関や訪問看護、介護施設などの利用も積極的に検討しましょう。
(参考文献)
1,日本神経学会 監修:認知症疾患診療ガイドライン2017.医学書院.P.105,2017
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_03.pdf(最終閲覧日:2022年10月5日)
2,Cintra MTG, et al.:J Nutr Health Aging.2014 Dec;18(10):894-899
3,日本褥瘡学会 編集:科学的根拠に基づく褥瘡局所治療ガイドライン
https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0036/G0000101/0022(最終閲覧日:2022年10月5日)
4,日総研 TK創傷管理2単元本文 褥瘡発生部位
https://www.nissoken.com/tukyo/0088/2mihon.pdf(最終閲覧日:2022年10月5日)
5,日本褥瘡学会 編集:改定DESIGN-R2020®コンセンサス・ドキュメント.照林社.P.12,2020
http://www.jspu.org/jpn/member/pdf/design-r2020_doc.pdf(最終閲覧日:2022年10月5日)
6,日本褥瘡学会 編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版).G-53,2015
http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline4.pdf(最終閲覧日:2022年10月5日)
7,日本褥瘡学会 褥瘡の治療について
http://www.jspu.org/jpn/patient/cure.html(最終閲覧日:2022年10月5日)
8,日本褥瘡学会 編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版).G-57,2015
http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline4.pdf(最終閲覧日:2022年10月5日)
9,日本褥瘡学会 編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版).G-58,2015
http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline4.pdf(最終閲覧日:2022年10月5日)
10,日本褥瘡学会 編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版).G-60,2015
http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline4.pdf(最終閲覧日:2022年10月5日)
11,日本神経学会 監修:認知症疾患診療ガイドライン2017. 医学書院.P.99,2017
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_03.pdf(最終閲覧日:2022年10月5日)
12,日本褥瘡学会 編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版).G-36,2015
http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/guideline4.pdf(最終閲覧日:2022年10月5日)