脳卒中の後遺症では、言語・記憶の障害や麻痺などの身体症状がみられます。
「思うように身体が動かない」「これまでできたことができなくなった」と感じ、不安やうつなど精神的な症状を引き起こすことも少なくありません。
本記事では、脳卒中の後遺症の具体的な症状や対策、ケアについて詳しく解説します。
脳卒中の後遺症の原因
脳卒中には「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3種類があり、いずれも脳に損傷を与える病気です。脳が損傷を受けて脳機能が障害されることが、脳卒中の後遺症の原因です1。
脳卒中についてはこちらで詳しく説明しています。
脳卒中の後遺症の症状
脳の損傷部位によって、後遺症の症状はさまざまです。
高次脳機能障害
脳卒中の後遺症として、以下のような高次脳機能障害がみられます2, 3。
障害の種類 |
影響を受ける機能 |
具体的な症状 |
失語 |
言語 |
言葉がうまく出てこない。言葉の内容が理解できない。 |
失行 |
運動の順序やパターンの理解 |
歯ブラシの使い方や、服を着る順番がわからない。 |
失認 |
感覚による認識 |
自分が病気であることがわからない。どちらが左右か認知できない。家族、物を見ても思い出せない。 |
注意・遂行機能障害 |
集中力・計画力 |
注意が続かない。計画を立てられない。 |
行動や情緒の障害 |
感情・行動のコントロール |
すぐ怒る。大声を出す。 |
記憶障害 |
記憶 |
覚えられない。思い出せない。 |
(文献2、3を参考に表を作成)
失認や記憶障害の症状は、脳卒中後の認知症によるものである可能性があります。脳卒中を発症した方の2〜4割が1年以内に認知症を発症し、そのうち半分は血管性認知症、3〜5割はアルツハイマー型認知症と考えられています4。
血管性認知症についてはこちらで詳しく説明しています。
麻痺、痙縮
麻痺が残り1、身体が思い通りに動かしづらくなることがあります。痙縮(けいしゅく)は、筋肉が異常に硬くなり、勝手にこわばってしまう状態です5。
脳の損傷部位によっても症状はさまざまで、運動麻痺、反射の異常(筋肉が勝手に縮む)、感覚障害(しびれや痛み) などが同時に現れ、症状が複雑になることもあります。
疼痛
脳卒中の発症後、数カ月で発症する慢性の疼痛は、脳卒中後中枢性疼痛(CPSP)と呼ばれています4。
特徴的な症状として、寒冷刺激(冷たいものに触れるなど)によるアロディニア(本来なら痛みを感じない刺激で痛みを引き起こす状態)があります。
また、触った感覚がわかりにくくなる「触覚障害」や、温度や痛みを感じにくくなる「温痛覚障害」、ちょっとした刺激で強く痛みを感じる「知覚過敏」が出ることもあります。
CPSPは通常の消炎鎮痛薬で効果はなく、抗けいれん薬や抗うつ薬が用いられますが治すことは難しいとされています4。
脳卒中後うつ
脳卒中後のうつは、脳卒中後うつ病(PSD)と呼ばれています6。「1日中、毎日の憂うつで気分が沈む」といった抑うつ気分、「趣味などへの興味がなくなる」「閉じこもりがちになる」といった興味や喜びの喪失が見られます。
また意欲の低下、食欲低下や睡眠障害、疲れやすいなどの身体症状が出やすいのがPSDの特徴です。
サルコペニア
サルコペニアとは、運動量の減少や、食事がうまく取れないことによる栄養不足により、筋力が低下する現象です1。歩行障害・転倒や、嚥下力低下による誤嚥性肺炎などのリスクとなります1, 8。加齢によっても発症し、高齢の脳卒中発症者の約30〜40%が患っていることがわかっています1。脳卒中後の麻痺や痛みなどによって運動量が減ると、進行する可能性が高くなります。
誤嚥(ごえん)性肺炎
脳卒中後は誤嚥しやすく、肺炎のリスクが高まります。特に、脳卒中発症後1年以内の死亡原因の約20〜25%が肺炎であると報告されています4。
嚥下(えんげ)機能をコントロールする脳の部位の損傷や、サルコペニアによる嚥下力の低下8によって嚥下障害が起こると、食べ物や唾液をうまく飲み込めません7。
また片麻痺やサルコペニアでお腹の筋力が低下すると、咳をする力が弱まったり、姿勢の崩れが起きたりして、痰や異物が気管に入りやすくなります7。
脳卒中の後遺症のケア
発症前のように思い通りに身体が動かせないことで、生活に支障が出て精神的につらくなってしまうことがあります。症状に適した身体的ケアと、心のケアが大切です。
身体的ケア
リハビリテーションなどの運動で身体を動かすことは、さまざまな面で良い影響をもたらします。
日常動作、コミュニケーションの改善
理学療法・作業療法・言語聴覚療法などのリハビリテーションは、身体の動作やコミュニケーションに関する機能の回復に効果的です。当事者の状態によって組み合わせて行うことで9、よりよい日常生活を目指せます。
脳卒中後うつ(PSD)の改善
PSDに対する運動療法で、うつ症状の改善が認められています6。
運動による即時的な効果として、気分を安定させる「セロトニン」の分泌が増えることなどが挙げられます。また運動を継続すると「自分はできる」という自信がつく、身体が運動に慣れてくる、日常生活の動作が改善する、といった変化が、うつ症状に良い影響を与えるのかもしれません。
サルコペニアの進行抑制
サルコペニアは麻痺などによる運動不足で進行するため、身体を動かすことが大切です。負担の少ない筋力トレーニングやウォーキングなどの有酸素運動が有効とされています。栄養面については、適切なカロリー摂取とバランスの良いタンパク質摂取を心がけましょう1。
誤嚥性肺炎のリスク低下
片麻痺やサルコペニアによって筋力低下した腹直筋にアプローチすることで、咳をする力の回復と、適切な姿勢の維持が期待できます7。また、サルコペニアによって筋力低下した舌骨上筋にアプローチすることは、嚥下力の改善に効果的です8。
なお、嚥下障害でお困りであれば、リハビリテーション科などで嚥下状態に合わせた食形態や工夫について相談しましょう。栄養の確保は、誤嚥性肺炎のリスクを減らすのに重要です1。
心理的ケア
発症前と同じ生活ができなくなったことへの悲しみや、将来への不安など、当事者はさまざまな悩みを抱えています。脳卒中は突然発症することが多いため、現実を受け入れるには時間がかかるでしょう。不安な気持ちに寄り添い、しっかり話を聞くことが大切です10。
また「後遺症がある=病気が治っていない」わけではなく、「後遺症は残っていても、病気自体は落ち着いていて、生活ができる状態」9 ということを伝えてあげることで、不安を和らげられるかもしれません。
まとめ|脳卒中の後遺症の症状とは?対策やケアについて解説
脳卒中の後遺症は脳の損傷部位によって異なり、回復の度合いは個人差があります。高次脳機能障害や運動麻痺、嚥下障害などの症状は、リハビリテーションをすることで改善することもあります。身体的な問題だけでなく、心理的な負担も大きいため、周囲の理解と支援が重要です。